エレーヌ・グリモー『レゾナンス』

Resonances

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クラシック界では珍しく独自のコンセプトを持って選曲されたアルバムを多く出している異色のピアニスト、エレーヌ・グリモーの現時点での最新作です。
“レゾナンス(共鳴)”をキーワードとして集められたのは、モーツァルト、ベルク、リストそしてバルトークの作品。いずれもオーストリアハンガリーの作曲家です。とはいえ、活躍した年代も作風もバラバラなのですから、この組み合わせにどれほどの説得力を持たせられるかはひとえにグリモーの腕次第ということになります。
それではお手並み拝見、とプレイヤーにかけると冒頭のモーツァルト「ピアノ・ソナタ第8番」からいきなり驚かされることになりました。まるで聴く者の不安感を煽り立てるような、かなり個性的なモーツァルトです。おそらくこのアルバムの中で好悪が最も分かれる演奏だと思いますが、アルバム全体を通して考えてみるとこの解釈だからこそ、次に控えるベルクのソナタへ自然につながっていけることが分かります。モーツァルトとベルクの間にあるおよそ1世紀の時の隔たりをぐっと近づけることにかなり成功しているのではないでしょうか。
そのベルクと続くリストのソナタが本作の中心をなしていて、どちらも聴き応えのあるものになっています。個人的にはベルクに強く惹かれました。グリモーが11歳の頃から親しんでいたというだけあって、ベルクならではの官能性が見事に表現されています。リストは叙情的な部分と力強い部分の対比のつけかたがうまくて、30分にわたる大曲を最後まで興味深く聴かせてくれます。
最後はバルトークルーマニア民族舞曲』。これはリサイタルだとアンコール・ピースに相当するものでしょう(実際の公演ではバルトークまでが正規のプログラムで、その後にアンコール曲を演奏したのですが)。民族色をはっきり出した小品で改めて4人がオーストリアハンガリーの作曲家であることをアナウンスして終了、という流れですね。バルトークのピアノ・ソナタの演奏も入れて欲しかったけど、それはまた別の機会に、ということでしょう。
聴き終えて、正直、彼女のコンセプトを完全に理解したとはとてもいえないのですが、アルバム全体に流れる彼女の意志は強く感じ取ることができました。ロックでもコンセプト・アルバムを好む私にとってはこういったアルバムがクラシック界でも多くなってきたのはうれしいし、今後のグリモーの活動も期待して待っていたいと思います。