5/5ムーンライダーズ・デビュー35周年記念「火の玉ボーイコンサート」@メルパルクホール

京都から東京に戻ってきたばかりのid:kissheeさんと、このメモリアルなコンサートに行ってきました。
例によってユーモアたっぷりだった、開演に先立つ注意のアナウンスの後、客席後方から東京中低域の面々がバリトン・サックスを吹きながら登場するという意表をついたオープニングでスタート。ステージに登ったところで「魅惑の港」が高らかに奏でられ、これから始まる音楽の航海の門出を称えるかのように、力強い響きが会場全体に鳴り渡りました。
そしていつもよりややかしこまった衣装でムーンライダー「ス」のメンバーが登場。第1部は『火の玉ボーイ』の全曲がそのまま一気に演奏されました。曲によって徳武弘文や高田漣などが加わりながらも、感傷にどっぷりと浸る暇は与えないとしているかのように、次々と畳み掛けて進んでいきます。アレンジはある程度当時の音を踏まえながらも、あくまでも今のムーンライダーズサウンド。当時よりぐっと重心が低くなってワイルドでタフに攻めます。鈴木慶一のヴォーカルも張りがあって好調さを感じさせました。4曲目「火の玉ボーイ」で登場した矢野顕子はさすがの存在感。曲の後半で彼女の伸びやかなスキャットが舞えば、一気に会場の空気が彼女の色に染まっていくのが感じられてゾクッとしました。「ウェディング・ソング」でのゲスト、あがた森魚も存在感では負けておらず、やはりこの2人は別格ですね。他のゲストがどことなく遠慮がちで控えめな佇まいだったのに比べて、彼らは「お、慶一君達、なんか面白そうなことやってるじゃん。わたしも混ぜてよ」といった風情で自然に溶け込んでいるんです。アッコちゃんは「髭と口紅とバルコニー」でバック・コーラスにまわっても大きなアクションでノリノリ。あがたさんも第1部と第2部の間にステージ袖の演壇であの独特の演劇的なノリで口上を披露するなど、ムードメイカーとしても大活躍でした。
15分の休憩を挟んで第2部。これは慶一以外のメンバーとゲストにスポットを当てていく趣向でした。イントロダクションとして高田漣によるペダル・スティール・ギターのソロの後、まずは岡田徹ヴォコーダーによるヴォーカルで歌った「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」で軽やかにスタート。続いて武川雅寛による「頬うつ雨」。朗々とした調べに和みます。鈴木博文コーナーでは「シナ海」辺りかと思いきや、なんと「月の酒場」を歌ったのが驚き。そして『火の玉ボーイ』当時は正式メンバーではなかったせいか、ここまでどことなくおとなしめだったギター番長・白井良明が自分のコーナーになって鬱憤(?)を晴らすかのように大爆発。強烈なノイズを轟かせて「アルファビル」を熱演。東京中低域も加わった厚みと迫力のある圧巻のパフォーマンスでした。直後のかしぶちコーナーは一転して、矢野顕子のピアノ、かしぶちのアコースティック・ギター、武川のヴァイオリンという室内楽的な編成による繊細な「砂丘」。矢野とかしぶちのデュオが聴けたのが何よりうれしくて、個人的にはこの日一番のハイライトでした。
後半に入りゲストをフィーチュアーした演奏が続きます。トップバッターは既にここまで大活躍のアッコちゃん。その勢いは衰えることを知らず、「達者でな」を実に楽しそうに歌い、そのまま矢野誠の曲になだれこんでいきました。続いて南佳孝「風にさらわれて」、あがた森魚「リラのホテル」とたまらないナンバーが連発。慶一たちとのリラックスした会話もあり、ステージ上では同窓会的な雰囲気が漂っているのですが、いざ演奏になると先にも述べたようなワイルドでハードなサウンドが懐古趣味に陥るのを防ぎ、あくまで彼らの音楽は現在進行形であることを主張していたのが良かったですね。唯一レトロ風味だったのは松田幸一の素朴な歌唱が微笑ましかった服部良一ナンバー「東京の屋根の下」でしたが、これも自分たちの原点のひとつとして服部良一を捉え直す試みと受け取ることができて、決して後ろ向きではないのですね。そしてゲスト・コーナーの締めは徳武弘文が「ピーター・ガンのテーマ」*1をカッコよく決めてくれました。
いよいよコンサートも終盤に入り、ムーンライダー「ズ」による曲が登場。慶一による「火の玉ボーイがあれから3年でヴィデオ・ボーイになりました」とのMCで「ヴィデオ・ボーイ」、そして昨年暮れのライヴに連なる、コーダでプログレ的展開をたっぷり聴かせた「バック・シート」と充実振りが伝わる力演が続きます。最後はメンバー全員が前に出て「6つの来し方行く末」で幕。この曲を聴くたびに彼らとザ・バンドの共通性を感じずにはいられません。
アンコールは全員登場で「大寒町」。アッコちゃんのピアノ弾き語りからバンド演奏につながり、博文、あがた、慶一、南が順にヴォーカルを取る姿に感無量。気がつけばあっというまに3時間以上が経過していました。熱気さめやらぬまま会場を去っていく観客達。会場では名残を惜しむかのように「蛍の光」が鳴り続けていたのでありました。総じて実にライダーズらしい過去の総括でしたね。慶一曰く、秋に出すという新作では「とても新しいことができそう」とのこと。40周年へ向けての更なる飛躍に今から高まる期待を抑えられそうにありません。

*1:私は曲名を失念していたのですが、neuromantistさんからツイッターで教えてもらいました。感謝!