ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団『シェーンベルク:浄夜他』

最近やたらにカラヤンのCDが目につくな、と思っていたら、今年が生誕100周年だったんですね・・・・と、ほとんどカラヤンに思い入れがない私ですが、さすがに彼のアルバムは何枚か持っています。けれどもあまりに華麗すぎて、聴いてもすぐお腹いっぱいになるというのが正直なところ。しかし、このアルバムは貴重な例外です。
カラヤン新ウィーン楽派とは一見相性が悪そうに思えますが、実際はLP3枚に及ぶ録音を残しています。このアルバムはそこから有名な曲を抜粋してまとめたものですが、どれも素晴らしい名演揃いなのです。特にシェーンベルク浄夜」がすごい。まだ12音技法を採用する前の作品であり、後期ロマン派の色彩が強い曲なのですが、ここで聴かれる濃密な弦の響きのなんと官能的なことでしょう。深夜ひとりでこの演奏に耳を傾けているとスピーカーから放射される無数の糸に手足を絡めとられ、音の繭に包み込まれるような気になります。この演奏で初めてこの曲に接したせいもあって、どうも他の演奏では(例えばブーレーズのような優れた演奏であっても)物足りなさを感じるようになってしまったのだからオソロシイ。さすがにここまでの濃密さはありませんが、他の収録曲、ベルク「抒情組曲」、ウェーベルン管弦楽のためのパッサカリア」でもいわゆる新ウィーン楽派のイメージをくつがえす豊麗な響きを聴かせてくれます。苦手な人でも思わずうならずにはいられない、このサウンドの強烈な説得力。なんだかんだいっても、カラヤン/ベルリン・フィルの組み合わせは20世紀を代表するサウンド・メイカーのひとつだったんだな、と再認識させられました。