アルド・チッコリーニ『モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11、2、13番』

みなさま、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

2012年最初のアルバム・レヴューはアルド・チッコリーニの最新録音のアルバムです。録音当時85歳のチッコリーニですが、現在も精力的に活動を続けていて昨年も来日したばかり。残念ながら私は行くことができなかったのですが、多くの人に感銘を与えた演奏であったそうです。

ここに届けられたこのモーツァルトソナタ・アルバムも、そんな彼の充実ぶりを伝えてくれるもの。「枯淡の境地」からは遠く、かといってただ若々しいだけでもありません。比較的ゆったりとしたテンポで奏でられながらも軽やかさを決して失うことはないこの演奏からは、瑞々しさと円熟ぶりが自然に溶け合った、今のチッコリーニならではの味わいが感じられます。「モーツァルトは一生の間どの歳になっても弾く音楽です。というのもモーツァルトは永遠の子供だからです」と彼が語るとおりの音楽がこのアルバムから確かに聴こえてくるのです。

近年はイタリアの名器、ファツィオーリを愛用していたチッコリーニですが、ここで使用しているピアノはベヒシュタイン。スタインウェイのような華麗さはありませんが、柔らかい音色による親密な響きでは勝ります。そんなベヒシュタインとチッコリーニが出会って生みだされたこのモーツァルトは、肩ひじ張らない親しみやすいものでありながら、スケールの大きさが自然とにじみ出たものになりました。もし、モーツァルトが長命を保っていたら、こんな音楽をつくっていたのではないか、との思いに誘われる素晴らしいアルバムです。