細野晴臣『メディスン・コンピレーション』

メディスン・コンピレーション

メディスン・コンピレーション

90年代再生YMOの始動直前に制作されたアルバムで、細野のアンビエント志向が誰にでもわかる形で打ち出された一枚といえるでしょう。当時を振り返ってみると、教授はサントラ中心で、オリジナル・アルバムはハウスに接近。幸宏はどんどんアコースティック色が強くなっていた時期で、「今3人が集まっても、どう折り合いつけるんだ?」と高まるYMO復活熱望の声を傍目で聞きながら思っていたものでした。結果として出てきた『テクノドン』は、決して嫌いなアルバムではないのですが、今回取り上げた『メディスン・コンピレーション』の方が私には刺激的でしたし、今もその思いは変わりません。
前作『オムニ・サイトシーイング』は乾いた音像が特徴でしたが、こちらはうって替わって沈み込むような深い音像に。『ハニー・ムーン』の再演(矢野顕子スキャットが素敵)や、『マブイ・ダンス#2』といった過去とのつながりを感じさせる曲もありますが、ブライアン・イーノアンビエント・レーベルから作品を発表したこともあるツィター奏者、ララージが参加していることに象徴されるように、全体的にはアンビエント・ハウスの細野的展開といった趣です。 ただし、そんな中にニューオリンズ・ファンクの「アイウォイワイアオウ」がしのばせてあったりして、決して一面的な展開にならないところが“コンピレーション”たる由縁でしょうか。なのでこのアルバムをひと言で表現するとなると、“アンビエント”といった既成の用語よりも、細野自身がかつて責任編集を務めていた雑誌*1「H2」の中で提唱していた“クワイエット・ヒップ”という言葉の方がふさわしい。この言葉、細野が生み出した数あるキャッチ・コピーやネーミングの中でも一、二を争う優れた出来だと思うのですが、いかがでしょうか?

*1:創刊準備号だけで終わっちゃいましたけど・・・