8/14京急上大岡店将棋まつり

第10回を迎えた京急上大岡店将棋まつりに行ってきました。将棋ファン以外の方には知られていませんが、この時期、全国各地で将棋まつりが行われているのです。昨日の目玉は羽生名人の登場。午前中にトークショー、そして午後1時30分からは席上対局を行いました。席上対局目当てで早い昼食を済ませ、12時30分には現地についたのですが、既に会場はぎっしりで立ち見も出ている大混雑。羽生人気を甘く見てたぜ(^^;)。なんとか対局者と大盤解説の両方が見られる位置をキープし、時間を待ちます。

簡単に会場の様子を説明すると、京急百貨店上大岡店7階の催事場にステージが設けられ、そこで対局が行われます。その横には解説用の大盤が設置されていまして、指し手の解説をリアルタイムで行うんですね。横で解説されちゃあ邪魔なんじゃないか、と思われますが、読みに集中していると何を話しているのか分からないそうです。とはいっても序盤のうちは耳に入ってくるので、鈴木八段いわく「解説のときは、最初はとにかく対局者を誉めまくるのがコツ(笑)」とのこと。客席の横には物販コーナーがあり、扇子や根付などのグッズ類(佐藤棋王の扇子を購入しました)、駒、チェスクロック、棋書などを販売しています。後ろは大会や指導対局が行われるスペースとなっており、そちらも満員で始終パチパチと駒音が響いていました。

さて時間となり羽生名人と対局相手の松尾七段が入場。羽生名人は前日深浦王位と竜王戦の決勝トーナメントを戦ったばかり。その将棋はずっと苦しい展開が続いていたのを大逆転で制するという激闘。さらに今日は長野東急の将棋まつりに出席するという相変わらずのハードスケジュールです。しかし、特に疲れた様子はみせず、飄々とした佇まいで姿を現しました。対する松尾七段はこころもち緊張した表情。将来を嘱望されている若手棋士の一人です。解説は米長永世棋聖という豪華な顔ぶれがそろいました。
振り駒で先手となったのは松尾七段。羽生名人は一手損角換わりを選択しました。駒組みが進んで相腰掛銀の形に。ここで米長永世棋聖「この形はねえ、あまり解説したくないんですよ。私が名人位を奪われた第6局がこの形でねえ。当時挑戦してきたハブという若者がこうやってきたんですね」と会場の笑いをとります。聞き手の、この日の総合司会も務めていた女流棋士の元気印、鈴木環那女流初段も好サポート。米長がいじってきてもちゃんと対応できるのがいいですね。
場内の喧騒の中、両対局者は真剣な表情で手を読み、指し手を続けていきます。うまく松尾七段の駒を上ずらせた羽生名人が小駒をなりこませ、松尾玉に迫ってきました。これは名人の技有りで快勝かと思われたのですが、ここからの松尾七段の粘りが素晴らしかった。馬を攻防に利かせ、桂馬を自陣に打ち込んで懸命に凌ぎます。両者あっというまに秒読みとなり(しかも途中で一手30秒の秒読みが20秒に短縮された)、羽生名人も決め手を見つけることができないまま膠着状態となり、ついに千日手となりました。さすがにスケジュールの都合上指しなおしという訳にはいかず、引き分けです。「羽生君もこれを勝ちきれないようじゃあ、マダマダだなあ〜」と冷やかす米長に苦笑いを浮かべるしかない羽生名人でした。名人の華麗な勝利を見たかったファンも多かったと思いますが、松尾七段の執念の粘りにプロのプライドを感じました。生で千日手を見るのは初めてだったので貴重な体験でしたよ。

その後、羽生名人はサイン会(限定30名。ジャンケン大会の勝者のみに行いました。私はあえなく最初のジャンケンで撃沈(^^;)です)の後、会場をさりました。ようやくここでやや人が減ったので席につくことに成功。残りの席上対局をゆっくり観戦することができました。
まずは女流対決。本田小百合女流二段と貞升南女流1級の対局です。居飛車党同士の対戦なのに解説(鈴木大介八段)、聞き手(中村真梨花女流初段)は振り飛車党(^^;)。鈴木八段は「いやあ、居飛車はムズカシイですね〜」とボヤキながらもわかりやすい解説で楽しませてくれました。途中何度か貞升女流1級にチャンスがあったようですが、うまくものにすることができず、本田女流二段の勝利。浴衣姿が似合っていた本田女流二段、対局姿勢も背筋がピンと伸びてとても美しかったです。貞升女流1級はハニカミ屋さんという印象で、これはこれでとても可愛かったです、ハイ(^^;)。

最後は鈴木八段と東大出身の若手、片上五段の対局。解説は勝又六段です。解説名人の勝又六段、先手が鈴木八段となったとたん「鈴木八段の初手はこれ(5六歩)でしょう。“時代はパワー○○○”(←将棋世界誌連載中の「時代はパワー中飛車」のこと)という講座を連載しているんですからね。ここが倍率1.5倍です」と早くもトークが止まりません。聞き手の鈴木女流初段も負けじと「いや、こっち(7六歩)じゃないですか?ハチワンダイバーの師匠で、七手で将棋を終わらせた方ですから」と鈴木八段のもうひとつの得意戦法、石田流を示唆。注目が集まる中、鈴木八段の初手は7六歩。しかしすぐ五六歩も指して結局中飛車に。そしてそこから穴熊に囲ってきました。
勝又六段いわく「鈴木八段、控え室の時は、暑いからあっさり済ませようなんて言ってたんですよ。なのに穴熊。全然あっさり済ませようなんて気はありませんね。棋士は盤を前にすると人が変わるんです」。対局後に片上五段がいうには「鈴木先生は控え室で、まさか席上対局で居飛車穴熊なんてするわけないよね〜、と私におっしゃってたんですよ。なのに自分は・・・(苦笑)」これが盤外戦術というものか(^^;)。これも双方力を尽くした熱戦となりました。途中、鈴木玉に詰みが生じていた局面があったそうですが(鈴木八段だけが気がついていて真っ青になったそうです)、秒読みに追われる中で片上五段はそれを発見することができず、鈴木八段の勝利となりました。

イベントの一環としての非公式戦にもかかわらず、3局とも見応えのある将棋でさすがプロ、と改めて感心しました。明日は佐藤棋王が登場するのでまた行ってみようかな。