メアリー・ルー・ウィリアムス『アンデスの黒いキリスト』

アンデスの黒いキリスト

アンデスの黒いキリスト

メアリー・ルー・ウィリアムスデューク・エリントンにも一目置かれていた才能のピアニストだそうですが、初めて聴きました。1910年生まれの彼女は20年代から音楽家として活動を開始し、エリントンやベニー・グッドマンとも共演していたそうです。また、自宅アパートを開放して若手ミュージシャンへセミナーを行っていたそうですが、なんとその生徒にはタッド・タメロンやセロニアス・モンクバド・パウエルらがいたというのですから、ジャズ史に残る重要人物じゃないですか。今まで知らなかったのが恥ずかしいですね・・・。
そんな彼女が64年にリリースしたこのアルバムは中世の聖者マルチノ・デ・ポレスに捧げられたアルバム。通常のジャズ・ピアニストのアルバムとはかなり異なる荘厳な雰囲気を湛えています。2曲にグラント・グリーンが参加しているのが目をひきますが、アルバムの主役はレイ・チャールズ・シンガーズとジョージ・ゴードン・シンガーズの2組のコーラス・グループ。ジャズ・コーラスの洗練とゴスペル・クワイアの迫力が程よくブレンドされた歌唱がアルバム全体のトーンを決定づけています。メアリーのピアノは派手さはないものの、独特の黒い粘り気がある演奏。コーラス抜きのピアノ・トリオ編成で奏でられるガーシュイン・ナンバー「イット・エイント・ネセサリリー・ソー」でそんな彼女の持ち味が味わえます。また、冒頭のタイトル・ナンバーでは曲の開始直後からずっと無伴奏でコーラスが歌っているのですが、4分経ったときに切り込んでくるメアリーのピアノが、短いながらもはっとするような美しさ。特に複雑なフレーズではないのですが、並々ならぬセンスを感じさせてくれます。
モダン・ジャズの枠を越え、サン・ラーにも影響を与え、70年代にはセシル・テイラーとデュオ・コンサートを開いたというメアリー・ルー・ウィリアムス。これはもっと聴いてみなくてはなりませんね。