ジョニ・ミッチェル『夏草の誘い』

Hissing of Summer Lawns

Hissing of Summer Lawns

かねがねプリンスは彼女に対する尊敬の念を隠そうとしていないし、ジャネット・ジャクソンもかつて彼女の曲を大胆にサンプリングした曲を発表していました。かのようにジャンルを超えてリスペクトされる存在となっているジョニ・ミッチェルですが、その理由の一端はこのアルバムを聴けばわかることでしょう。1975年に発表された充実したアルバムです。


このアルバムに先立つ作品『コート・アンド・スパーク』で、ロックやジャズの要素も取り入れて新たな方向性を示したジョニ・ミッチェルが、更にその歩みを進めた一作です。新しい可能性を見出した喜びがどの曲からも伝わって来るのですね。アフリカのブルンディ・ドラムを導入した「ジャングル・ライン」はある意味ポール・サイモン『グレイスランド』の先駆けともいえる意欲作。その一方『コート・アンド・スパーク』ではLH&Rの「トゥイステッド」をカヴァーしていましたが、ここではジョン・ヘンドリックスの「センターピース」を取り上げています。こうした前作からのつながりと新しい試みが同居しているのがこのアルバムの味わいを豊かにしています。アンサンブルもぐっと洗練されたものになり、「フランスの恋人たち」なんてほとんどスティーリー・ダンに近いサウンドになっているのに驚かされます。この後の作品がジャコ・パストリアスの参加で話題となった『逃避行』なだけに、このアルバムはちょっと地味な扱いとなっているような気がしますが、私が一番好きなジョニ・ミッチェルのアルバムがこれです。内ジャケの、ノーマン・シーフが撮影した、水に浮かぶ彼女の写真も魅力的!