第61期王将戦 第一局

年明け早々すごい将棋を観てしまいました。王将・棋王の二つのタイトルを有する久保二冠に佐藤九段が挑戦する王将戦第一局。前夜祭で久保二冠は「見る人をアッと驚かせる対局になればいいかなと思います。」と語りましたが、まさにその言葉通りの、いや、おそらく当の久保二冠さえも予想しなかったであろう将棋となったのでした。
先手は佐藤九段。となるともちろん久保二冠の戦法はエース中のエース、ゴキゲン中飛車です。佐藤九段は超速3七銀で対抗し、現代将棋の最先端の戦いとなりました。しかし、ここまでは充分予想の範囲内。最初の驚きは久保二冠からでした。角道を止めない振り飛車の代表的戦法であるゴキゲン中飛車なのに、わざわざ自分から角道を止めてしまう秘策、菅井竜也五段による「菅井新手」を繰り出したのです。私もはっきりと狙いが分かっているわけではないのですが、歩損してさらに先手の銀を進出させた代わりに、中央からのさばきと銀を攻撃目標にする意欲的な手であるようです。ゴキゲン側の最新対抗策を前にした佐藤九段ですが、ひるむことなく銀を前進。そして25手目に驚愕の一手を指しました。歩を守るために飛車がいるところに玉をぐっと上がる5七玉です!

久保二冠が指した「菅井新手」も驚きの手には違いないのですが、これまでの居飛車ゴキゲン中飛車の戦いの歴史を踏まえていないと分かりにくいところがあると思います。しかし、この佐藤九段の5七玉はあまり将棋を知らない人にも「ものすごいことをやっている」と思わせる強烈なインパクトのある手なのではないでしょうか。渡辺竜王のブログによると、

戸辺君の結婚式の3次会で「新郎が来るまで暇だから新郎の得意戦法でも潰しとくか」みたいなノリでこの形の研究が始まって、△32銀型との違いはありますが
誰かが「さすがに▲57玉はないよね」→酔っ払いの一同、笑う。というシーンがありました。笑った後に「でも具体的にはどうするんだ?」と研究は続いたんですが・・・僕もこの日はかなり飲んだのでよく覚えていない(笑)

王将戦とか。 - 渡辺明ブログ

といったことがあったそうですが、いざ実戦で、しかもタイトル戦の大一番でこれを指せる人はどれだけいるのでしょう。剛直かつ独創的な佐藤将棋の真髄を見せてくれた一手でした。
以降は佐藤九段が“さばきのアーティスト”久保二冠のさばきを抑え込んで徐々に優勢に。苦しくなった久保二冠も中央突破を狙って殺到しますが、佐藤九段にひょいと玉を交わされると、まったく寄り付かなくなってしまいました。最後は寄せの教科書に出てくるような綺麗な必至をかけて、佐藤九段先勝。佐藤ファンにはたまらない将棋となりました。とはいえまだタイトル戦は始まったばかり。久保二冠もこのまま引き下がることはないでしょう。この二人なら、きっと二局目以降も激しくかつ魅せる将棋を指してくれるにちがいない、と期待を抱かせる幕開けでした。