7/11 大和証券杯最強戦第2回戦 佐藤康光九段対渡辺明竜王

最強戦第2回戦屈指の好カード、佐藤九段vs渡辺竜王を観戦しました。竜王戦棋聖戦といったタイトルマッチで幾度となく名勝負を繰り広げてきた2人ですから期待は高まります。まず注目していたのは、もし渡辺竜王が後手をもったら2手目に何を指すのか、ということ。というのは最近の渡辺竜王は後手番での戦いに試行錯誤を繰り返しているからで、その原因のひとつとなったのが、佐藤九段との直近の対局である、王位戦リーグでの一戦にあったからなのです。これまで渡辺竜王の2手目といえば、相手が誰であろうと8四歩。これは「どんな作戦でこようと受けて立つ」という堂々とした構えなのです。そしてそれは特に角換りの後手番の研究に自信を持っていたからなのでした。森内九段を挑戦者に迎えた先の竜王戦で、森内九段が事前に研究を重ねて誘導した角換り同型腰掛銀の作戦を後手番で鮮やかに打ち砕いたのは記憶に新しいところ(ちなみに、めんちかつさんはこれをきっかけに渡辺ファンになったそうな)。
ところがその後、渡辺竜王は朝日杯での対羽生名人戦、そして王位戦リーグの対佐藤九段戦で角換り同型腰掛銀の後手番で連敗します(私は冗談でこれを「島研の逆襲」と呼んでいました(^^;))。これ以降、渡辺竜王は2手目8四歩をあまり指さなくなったのです。なんと中飛車に振ったこともありました。この「2手目8四歩問題」が持つ意味については、棋聖戦でリアル観戦記を書いた梅田望夫さんがうまくまとめているので、参照してください。
ヒューリック杯 棋聖戦中継 plus: 【梅田望夫観戦記】 (2) 二手目△8四歩問題と将棋の進化の物語
さて、定刻になって開局。渡辺竜王は後手番です。早くも(私的には)緊張の一瞬でしたが、竜王は迷わず8四歩と指しました!今度は佐藤九段の応手が注目です。矢倉にするのか、角換りか、それとも・・・佐藤九段が選んだのは5六歩でした。そして角を上がり飛車をビュンと8八へ。佐藤九段得意の力戦振り飛車です。この後はじっくりとした展開になり、佐藤九段は銀冠に、渡辺竜王は矢倉に構えました。段々局面が煮詰まってきて、さあ先手しかけるか?と思われたとき、佐藤九段はなんと玉を1八〜2八へと往復運動(某掲示板では「反復横跳び」と表現されていました。うまい例えだと思います)。これは一体狙いは何?クリックミス?と目を白黒させているうちに竜王は自然に駒を盛り上げていきます。そこでようやく佐藤九段は相手の桂頭を攻めました。これでいいの?とリアルで観戦しているときは思っていましたが、なんと対局後の渡辺竜王のブログによると、これで先手が良いというのですから驚きです。

▲1八玉〜▲2八玉には驚きました。△3三銀と戻ったら千日手?まさか?という疑問を抱きながら手得を生かそうと自然に指しましたが▲7四歩と打たれて悪くなったので「普通に指しているのに悪くなるなんて、なんて理不尽なゲームなんだ」と勝手に怒る。
大和証券杯最強戦2回戦・佐藤九段。 - 渡辺明ブログ

悪くなったといってもそう簡単に崩れるわけはなく、この後玉頭での大激戦となりました。佐藤玉に怒涛の如く襲いかかる渡辺竜王。佐藤ファンの私としては途中、桂での両取り3連発をくらったときは「もうだめかー」と半分あきらめていました。佐藤九段も反撃を含みにしながらも懸命に受けますが苦しい局面が続きます。ところが、竜王が1五香と詰めろをかけて香を走ったのがなんと敗着。佐藤九段がしのぎきって勝ちました。とはいっても、初級者の目には「なんでこれで後手が投了するの?」としか思えません(^^;)。一緒に観戦していたあんころさん、めんちかつさんもポカンとした感じでしたね〜。1五香が敗着というのも感想戦で説明されて「そうなのか〜」となった次第です。

それでも最終盤で△2八角以下の推定勝ち筋があったなんて、なんて優しいゲームなんだという感じなのですが、それも逃して負け。
大和証券杯最強戦2回戦・佐藤九段。 - 渡辺明ブログ

実に難解。しかしこのうえなくスリリングな一局でした。私としては佐藤九段が勝って一安心。これで最強戦初のベスト4進出。次は久保二冠と激突です。目指せ初優勝!