第56期王座戦五番勝負第一局 羽生善治王座vs木村一基八段

羽生が持つ数々のタイトルの中でも、この王座戦前人未到の16連覇という記録を成し遂げた特別の位置にあるものです。そのタイトルに挑むは“千駄ヶ谷の受け師”こと木村八段。この2人、現在竜王戦の挑戦者決定戦三番勝負の真っ只中でもあり“羽生vs木村・炎の八番勝負”といった趣があります。対戦成績だけを見るならば羽生王座が圧倒しています。しかし不屈の粘りが身上の木村八段は、過去にその粘りでほとんど負けだった将棋を勝ったことがあり*1、一昨日の竜王戦挑戦者決定戦第二局でも粘り勝ちしたばかりなのですから予断は許しません。

果たして羽生王座の攻めを堂々と受けてたった木村八段が途中から優勢な局面を築き上げました。そしてそれまでじっと受けていたのが一転、羽生陣に飛車を打ち下ろし、さらに角を打って勝負に出ます。送りの手筋の金打ちも飛び出し、76手目の局面では控え室の行方八段が「さすがにこれは木村君の方がいいでしょう」と言うまでになったのです。ところがその直後、控え室が形勢を一転させる羽生の妙手を発見してどよめきます。その手が指されれば「木村さんの方に勝つ手が見えないのですが・・・」(佐藤棋王)というほどの手。考慮時間に余裕があった羽生王座が見逃す訳もなく、77手目にして木村優勢から羽生勝勢。いったいなぜこういうことになったのか・・・プロ棋士でさえ分からないのですから、私がわかるわけありません(笑)。最後はさすがの木村八段も頑張りようが無い局面になってしまい、羽生王座の勝ち。いやはや、強いことはよ〜く分かっているのですが、それでも「羽生王座、強し!」と感嘆せざるを得ません。今年の羽生はおそろしく強い。

*1:将棋ファンの間では“羽生の一手トン死”として有名。木村八段の負けを覚悟の上での最後の攻めに玉の逃げ方を間違えて、あっという間に詰まされてしまったのです