ロキシー・ミュージック「マニフェスト」(ASIN:B0000256VR)

huraibou2003-10-30


72年のデビュー・アルバムから82年の「アヴァロン」まで、駄作を残さなかったロキシー・ミュージック。そのなかで私が最も愛聴するアルバムです。グループの歴史的には転換点に位置する作品といえるでしょうが、実に聴かせるツボを心得た心憎い仕上がりになっているのは流石です。まずはジャケットが見事。ロキシーのアルバムは必ず個性豊かな美女がジャケットを飾っていましたが、ここではかつてないほど大量に登場。しかし、彼女達は全員マネキンなんですね。そのことに気づいたとき華やかに見えたジャケットが一転、空虚さと冷たさに支配されているように感じます。個人的にはフェリーニの映画「カサノバ」のラスト・シーン、自動人形と2人きりで踊るカサノバの姿を連想します。*1更に私が所有している紙ジャケCDはLP当時限定版だったピクチャー・ディスクを再現。マネキン達が全部裸になっているのです。このセンスにはうならされました、内容に移ると、LPの時はA面が EAST SIDE、B面が WEST SIDEとそれぞれ名づけられていました。EAST SIDEは重厚なイントロと沈み込むようなビトの表題曲「マニフェスト」からスタート。途中、「トラッシュ」のような軽快なナンバーもありますが、総じて重厚なイメージの曲が並びます。対してWEST SIDEは間近に迫ったニュー・ウェイヴに先駆けたような雰囲気。また洒落た「ダンス・アウェイ」やスタックス・ソウルを意識した?「クライ・クライ・クライ」などフェリーのブラック・ミュージック趣味も顔を出しています。そして終曲は美しい名曲「スピン・ミー・ラウンド」。“誰もいなくなった舞踏会場。音楽が終わると友達も帰ってしまい、僕一人、影だけが残る・・・”と歌いだされる、華やかさと表裏をなす空虚さを見事に表現したこの曲はアルバムをしめくくると同時に、ジャケットの光景に帰っていき、円環を閉じるのです。つくづくセンスの良いアルバムだと感心しますね。

*1:そういえばかつてフェリーは「カサノバ」という曲を歌っていました