ビーチ・ボーイズ『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ』

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

正直なところ、実際に音を聴くまではそれほど期待していませんでした。ブライアン・ウィルソンのソロならともかく、デニスもカールもいない今、ビーチ・ボーイズ名義のアルバムを出すことに“昔の名前で出ています”以上の意義が見いだせるのかと・・・。
ところがこうして届けられたアルバムは予想以上に充実した音楽がつまっていました。ほとんどの曲にブライアンが携わり、好調を持続していることをうれしく思う反面、ブルース・ジョンストンの曲が収録されていないことは残念でしたが、ここには確かにブライアンのソロではなく、ビーチ・ボーイズサウンドが鳴り響いているのです。初期の輝きはもはや取り戻すべくはなく、デニスやカールの代りが見いだせたわけではありません。けれどもこのアルバムを聴いていると、これまで歩んできた道のりに自然に向き合っているメンバーの姿が見えてきます。『サンフラワー』や『トゥデイ』など過去の名作を思わせながらも今の彼らならではの音楽になっている。このことになによりも胸うたれました。
『夕方っていふのは寂しいんぢゃなくて豊かなものなんですね。それが来るまでの一日の光が夕方の光に篭ってゐて朝も昼もあった後の夕方なんだ。我々が年取るのが豊かな思ひをすることなのとおなじなんですよ。もう若い時のもやもやも中年のごたごたもなくてそこから得るものは併し皆ある。それでしまひにその光が消えても文句言ふことないぢゃないですか。』と述べたのは吉田健一の小説の登場人物ですが、そんな吉田健一的黄昏の時間を今のビーチ・ボーイズは生きているのです。