5/4 鈴木慶一@六本木ヒルズアリーナ

5/3、4と六本木ヒルズアリーナで行われたフリーライヴ・イベント、TOKYO M.A.P.S。今年は矢野顕子がプログラム・オーガナイザーを務めました。できれば2日間全て観たかったのですが、残念ながら今回私が観られたのは鈴木慶一のライヴのみでした。
ムーンライダーズの活動休止宣言以後の鈴木慶一のライヴを見るのはこれが初めて。今回はバンド編成でムーンライダーズから武川雅寛、ジャック達のドラマー、夏秋文尚とここまではいわば盟友といったところですが、この日はそこに二人の新鋭が参加していました。先日素晴らしいデビュー作を発表したばかりのポップ・ユニット、カメラ=万年筆から佐藤優介がベースで、そしてソロとしてのデビュー・ミニアルバムのリリースを間近に控えたEAの女性ヴォーカリスト、マイカ・ブルデです。世代を超えたメンバーが集まり、この日はどんな音楽を聴かせてくれるのかわくわくしながから開演を待っていました。
ほどなくして開演。この日の演奏は夜にオン・エアされるとのことでまずはムーンライダーズの曲で“つかみ”に行くかと思いきや、マイクに向かった慶一の言葉は「outrageからの曲をやります」。これは昨年オランダへ行く直前のライヴで聴かせてくれた、ノイジーサイケデリックな音響世界!夏秋のタメの効いたビートと佐藤の重く太いベースが立体的な音像を生み出し、そこに武川のヴァイオリンが舞い、慶一のギターがうねる。混沌一歩手前の音響世界が会場を包み込み、そしてビートニクスの3rd『M.R.I』から「Doro Niwa」とこれまた渋い曲が続きます。この2曲で鈴木慶一ワールドに観客たちはあっというまに染められた感がありました。
ここで少しペースを変えて、『ヘイト船長回顧録』の世界へ。「流木のうた」〜「あたしの故郷は流木なの」と流木つながりの曲を演奏。「あたしの・・・」でかいまみえるカントリー・ロッキンな感触に『火の玉ボーイ』収録の「髭と口紅とバルコニー」を連想し、35年以上の年月が流れても変わらない慶一の本質を見たような思いにとらわれしみじみと感慨にふけっていました。
ここでマイカ・ブルデ登場。黒いコスチュームで固めた男性陣の中に、目にもあでやかな白いドレスと赤いハイソックスのキュートな姿で登場した彼女の姿とハイ・トーンのヴォーカルはこちらの目も耳も楽しませてくれました。ポップ寄りの選曲ならば、ここで「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」でもやるのかもしれませんが、歌われたのは「物恋うWaltz」と「Witchi-Tai-To」そして最後に『MOTHER』から「Eight Melodies」。ステージ上の慶一はリラックスしたふるまいでしたが、ムーンライダーズからの曲は一切やらないなど、随所に攻めの姿勢を強く感じさせる選曲と演奏でした。けれでも一部の前衛音楽のように聴衆から断絶したところで響く音楽ではありません。サイケデリックで、ケルティックで、ロックで、昭和歌謡でもあり、それらすべてが渦巻く鈴木慶一ならではの世界。1時間に満たない時間の中で、鈴木慶一という音楽家の頭脳に現在鳴っている音の一部を取り出して聴かせてくれたような、濃密なライヴでした。