1/25 スパイラル聲明コンサートシリーズ vol.20 「千年の聲」20回記念公演 鳥養潮作曲『存亡の秋』@スパイラルガーデン

表参道駅のすぐ側にある複合文化施設スパイラルの1Fにあるスパイラル・ガーデン。普段はカフェやギャラリーとして利用され、にぎわっている空間で、1998年から聲明のコンサートが開かれています。今回で実に20回となる記念の公演に行ってきました。聲明の実演に接するのは初めての体験です。
出演は「声明の会・千年の聲」。聲明の伝統の継承と発展を目的として、真言宗天台宗の指導者が宗派を越えて結成した会です。過去の上演記録を観ると、伝統的な聲明だけではなく新作にも積極的に取り組んでおり、今回の演目「存亡の秋」は新作聲明の再演となります。
「存亡の秋」はニューヨークで活動を続けている作曲家、鳥養潮(とりかい うしお)による作品で、2002年に作曲されました。本来は9.11同時多発テロの犠牲者に捧げられた曲ですが、「3.11」後の日本で再演されるということで、新たな意味合いが重ねられることになったのはいうまでもありません。
全体は以下の六部に分かれています。
・前讃「無常偈」
・唄「如来唄」「始段唄」
・散華「散華上段・下段」
・錫杖「三條錫杖」
・総回向「生死」
・終讃 「無常偈」
作品の特長としては仏教のテキストだけではなく、ネイティブ・アメリカンの古老の言葉も使用されていることが挙げられます。オープニングにあたる前讃とエンディングとなる終讃ではネイティブ・アメリカンの「ここにわたしはいる、人生の冬の季節のなかに、春この方、わたしは君とともに生きてきた。それにしても秋はいったいどこに行ったのだろう?」という言葉が厳かに歌われるのです。

現代的な外観を持つスパイラル・ガーデンの空間に、ゆったりとしたうねりを持つ僧侶の独唱が響いて式は幕を開けました。最初は数名の僧侶のみがステージに立ち、交互に、時には一緒に歌い継いでいきます。重々しくはなく、軽すぎもしない聲明独特の響き。声が重なったとき、はっとするほど豊かな拡がりを持つことに驚かされました。やがて他の僧侶たちが螺旋状のスロープをゆっくりと降りていきます。それぞれ鮮やかな彩の袈裟を纏っているのですが、決してきらびやかな印象を与えることはなく、落ち着いた雰囲気を湛えたまま唄は続いていきました。時折錫杖の金属音が響くものの、楽器による伴奏は無く、僧侶達の声が沈黙を一層深めていくようでした。
大きな動きを見せるのは後半の総回向になってから。左右二手に分かれて歩く僧侶達の読経と、作曲者自身の英語によるネイティブ・アメリカンのメッセージが多層的に響きあい、会場全体を包み込んでいきました。そのときの、まるで「声」が四方から蔓のように伸びてきて絡み合い、全身を巻き取っていくかのような感覚はこうしてレポを書いている今でも生生しくよみがえってきます。

やがて再び無常偈が歌われ、最後はかすかに打楽器が鳴らされておよそ一時間半にわたる式は幕を閉じました。これまで知ることのなかった時空間を体験することができましたね。また次の公演にも足を運びたいと思わせる素晴らしい公演でした。

存亡の秋(SONBOU NO TOKI)

存亡の秋(SONBOU NO TOKI)