THE BEATNIKS『LAST TRAIN TO EXITOWN』

LAST TRAIN TO EXITOWN

LAST TRAIN TO EXITOWN

10年ぶりの新作。これはビートニクス史上最も“ビートニク”なアルバムといえるでしょう。幸宏、慶一ともにヨーロッパ的な音づくりが得意な印象が強いのですが、ビートニクの先人たちに呼びかける「A Song For 4 Beats」、ビーチ・ボーイズ風コーラスを聴かせる「Go And Go」、ラヴィン・スプーンフルのカヴァー「つらい僕の心」などからはアメリカ的なものを感じさせます。もちろんそう単純に割り切れる音楽をこの二人が奏でるわけはなくて、Pupa風エレクトロニカ「Ghost of My Dream」やスライ・ストーン的なファンク・ビートをしのばせた「Camisa De Chino」などが多層的な味わいをもたらしています。歌詞についてはいうまでもないでしょう。表面的には穏やかで、収録時間も40分程度と、いまどきのアルバムにしてはコンパクトなサイズながら、物足りなさをみじんも感じさせないのは、それだけ一曲一曲の密度が濃いからに他ありません。前作『M.R.I』には中途半端な印象がどうしても否めなかった私としては、歌ものに的を絞った今度のアルバムは大歓迎。慶一はこのアルバムについて、シャーウッド・アンダーソンの短編集「ワインズバーグ・オハイオ」にも影響を受けたと語っていますが、このアルバムを聴く行為はまさに上質の短編集を繙くのと同質の、奥深い歓びを精神にもたらしてくれるのです。