ショーロ・クラブwithヴォーカリスタス『武満徹ソングブック』

武満徹ソングブック

武満徹ソングブック

武満徹が残した小さな「うた」の数々はこれまでにも多くのミュージシャンによって取り上げられてきました。私も何枚か手元においており、折に触れ聴いてきたのですが、ここにまたひとつ末永く愛聴するに足るアルバムが生まれました。
武満の「うた」はクラシックの歌曲というよりもポップスの方に近いところにありますが、いわゆる売れ線の“ポップス”よりはアクが無い、繊細な美しさをもっています。この繊細さをどう表現するかはなかなか難しい問題で、いわゆるクラシック畑の歌手によって歌われたアルバムは、丁寧に、敬意をもって歌われていることは伝わってきても、どうも歌の力が強すぎて微かな違和感を抱かずにはいられないものが多かったのです。もっともこれは普段ポップス系の歌の方に親しんでいる自分の好みが反映していることは否めませんが・・・。なので、数ある「うた」のアルバムの中でも、特に耳を傾けることが多いのは、石川セリ小室等といったポップス系の歌手によって歌われたものになります。
今回のアルバムはポップス系ということになりますが、複数のヴォーカリストを起用して制作されていることがこれまでありそうでなかった新機軸。選ばれた歌手たちもアン・サリーおおはた雄一松田美緒など、武満の繊細な世界をこわさずに表現することができる人たちが選ばれていているのがうれしいところ。そしてなんといってもショーロ・クラブによる演奏が素晴らしい。ギターを伴奏に歌われたアルバムならこれまでにもありましたが、クラシックの弦楽とは異なった形態の3種類の弦楽器による響きは、生前ギターを深く愛していた武満がとても喜びそう。歌い手が次々に変わることによるヴァラティと、ショーロ・クラブのバッキングによる統一感が見事に溶け合っています。武満を深く聴き込んだ人にも、これから聴き始めようとする人にもお勧めしたい素晴らしいアルバムだと思います。