9/17 鈴木慶一feat.上野洋子“High Noon Mini Live”@グレープフルーツ・ムーン

今年はムーンライダーズビートニクスにと大車輪で活躍中の鈴木慶一ですが、なんとソロでオランダ・ツアーまで敢行。そのオランダ出発前日に、日本のファンにもどんなことをやるのか披露する、ということで三軒茶屋・グレープフルーツ・ムーンで行われたミニ・ライヴに行ってきました。

グレープフルーツ・ムーンでのライヴといえば、7年前にも鈴木慶一のソロ・ライヴがありました。そのときは全編アコギの弾き語りで勝負。シンガー・ソングライターとしての力と存在感を見せつけたものでした。今度は上野洋子をフィー-チュアしてのライヴ、しかも海外公演を控えてといったシチュエーション。はたしてどんな音楽を披露するのかと楽しみにしていたのですが、良い意味で予想を裏切られました。シンガー・ソングライターの顔ではなく、かつてアンビエント的なサウンドを聴かせてくれた、Suzuki K1 7.5cc名義での音楽を発展させた世界がそこにはあったのです。

全体は三部構成でした。まずはラフな格好で慶一登場。彼がこれまでに手掛けた映画音楽の素材とした音響作品を3曲演奏しました。ガムランを思わせる金属的な響きとその場で慶一が発した声が幾重にもループし、底流にあるオリエンタルなサウンドとあいまって、独自の異空間を構築していた「ゲゲゲの女房」、ミュージック・コンクレートのようなダークなサウンドの壁を慶一によるエレキ・ギターのノイズが切り裂いた「アウトレイジ」、アンビエント的な拡がりの音風景に抒情的なピアノ・サウンドが映えた「座頭市」と大まかに特徴づけることはできますが、いずれも様々なサウンド・コラージュが施され、サントラで聴いたときとは全く異なるカオティックなサウンドが渦巻いていました。実験音楽スレスレでありながら、ポップスの衣がかろうじて纏われていたその音楽は、私にはどこかヴァン・ダイク・パークスの『ソングサイクル』を連想させました。もし若きヴァン・ダイクが今の時代に音楽をつくったら、こんな感じになったのではと思わせるものがありました。

ここで慶一はいったん退き、上野洋子登場。基本的には第一部の慶一のステージを受け継いだ形のパフォーマンスだったのですが、なんといっても彼女は優れたヴォーカリストでもありますから、必然的に彼女の声が占める割合が大きくなります。その場で歌った器楽的なフレーズがループされ、コーラスとなっていくあたりは、彼女の初期のソロ・アルバムで展開されていた世界の発展系といった趣で楽しむことができました。一転、東欧〜中東あたりの音楽を彷彿とさせるコブシを利かせた力強いヴォーカルを聴かせてくれた辺りは、彼女のヴォーカルの力量を再認識できましたね。また、彼女ならではのユニークな試みとして、最近のマイ・ブームという「他人の曲をカラオケに見立てて、即興的に歌う」ワザも披露。この日は「慶一さんのステージにお呼ばれしたので」ということで、カラオケに見立てられたのはムーンライダーズ「温和な労働者と便利な発電所」。曲が流れだしたとき、この時期にこの曲を選ぶのか〜とニヤニヤしてたら、上野さんはなんとそこで「♪ハァ〜〜、会津磐梯山は宝の山よ〜」と歌いだしたのです。このマッシュアップ(?)は強烈でしたね。歌い終わった後「ただちに人体に影響はありません」のダメ押しまでしてくれて、いやあ、上野さん、やるなあと感心しました。

最後は二人揃ってのステージ。上野が慶一の還暦を祝って歌った「♪60歳になったら〜、60歳になったら〜・・・年金もらえるんだってね〜、映画も1000円で見られるんだってね〜」に導かれて、照れくさそうに慶一再登場。まずはこれまでの流れを引き継いだサウンド・コラージュを演奏。慶一による「5001年の東京〜」の声が執拗にループされた、ビートルズ「レボルーションNO.9」を思わせるサウンドでした。そして「上野さんの歌はもちろん素晴らしかったけど、そろそろ慶一の歌も聴きたいな」と思っていたであろう、私も含めた多くの観客の期待に応え、ようやく「サテライト・セレナーデ(「月にハートを返してもらいに」)が歌われました。オリジナルでは台湾のアミ族によって歌われていたバック・コーラスは上野さんが担当。その後はMOTHERから「エイト・メロディーズ」(岡田徹アレンジによる未発表ヴァージョンだったらしいです)と、最新ソロ・アルバム『ヘイト船長回顧録』から「ウィッチ・タイ・ト」で本編終了。アンコールでは姪につくってもらったという還暦Tシャツで現れた慶一が1曲歌ってライヴは幕を閉じました。音楽家鈴木慶一の懐の深さを体感できた、充実した時間を過ごすことができましたね。