naomi & goro ×菊地成孔『calendula』

calendula

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いまや本家ブラジルよりもボサノヴァを愛しているのではと思われる日本。オリジナルからカヴァーまで、多数のアルバムが続々と市場に出回っています。どんな曲でもあのバチーダのリズムにのれば、とりあえず心地よくなってしまうのですから、その消化力には感心させられますが、たんなる一時のBGMをこえて、いつも手元に置いておきたくなるアルバムとなると、どれほどあるでしょうか。ただし、このアルバムが少なくとも私にとってそういう1枚になることは疑えません。
既に良質なボッサ・アルバムを送り出してきたnaomi & goroが菊地成孔とコラボレートしたこのアルバムは、ボサノヴァならではのエレガンスの中に適度な緊張感を秘めた、じっくりと耳を傾けるに足る出来になっています。菊地のサックスは、あくまでボサノヴァのフォーマットに寄り添った、曲の雰囲気をこわさない演奏なのですが、どこかエッジが立っていて、内に秘めたエネルギーを感じずにはいられません。また、いくつかの曲で彼が奏でるチェンバロがもたらす効果が素晴らしい。その硬質でありながら典雅な味わいを醸し出す音色に、この古典的な楽器がこんなにボサノヴァと相性が良かったのかと驚かされました。ゲッツ=ジルベルト以来の流れを受け継ぎながらも、現在にも刺激を与える音としてのボサノヴァを提示した、優美な佳作と思います。