吉松隆『タルカス クラシックmeetsロック』

タルカス~クラシック meets ロック

タルカス~クラシック meets ロック

今年の3月14日、東京オペラシティで行われた吉松隆監修による東京フィルハーモニー交響楽団による演奏会「新・音楽による未来遺産」の模様を収録したアルバム。
目玉はなんといっても吉松隆が編曲したELP「タルカス」のオーケストラ版。ジャケットを見れば一目瞭然ですね。クラシックコーナーの中にあって異彩を放っています(笑)。ELPだけではなくて、ナイスのジャケットのモチーフも使っているところが憎いですねえ。吉松によると当初はクラシック界からはほとんど無視された、とのことですが、さすが日頃からプログレ好きを公言しているだけあって、原曲のパワーと勢いをオーケストラに移し変えることにかなり成功しています。いわゆる“シンフォニック化”したのではなくて、あくまで“オーケストラ化”したものであることが重要。キース・エマーソンバルトークストラヴィンスキーに大きな影響を受けたことがはっきりと分かる仕上がりですが、難しいことを考えなくても聴いていて痛快な気分になるのが良いです。クラシック系の音楽を聴いて楽しくなることはあっても痛快な気分になることって、めったにないですからね、その意味からも貴重です。
その他の収録曲についても簡単に触れておくと、プログレ度の高さでいえば「タルカス」を上回っているのが黛敏郎「BUGAKU」。題名の通り雅楽の素材をオーケストラ化したものですが、松平頼則のようなストイックさはあまりなく、官能的な響きになっているのが黛らしい。吉松が述べているようにどこかピンク・フロイド(特に『原子心母』)に通じるところがあります。ドヴォルザークの有名な弦楽四重奏曲アメリカ」をピアノとオーケストラ編成に編曲した「アメリカRemix」はアルバム収録曲中最もポップな出来でリラックスして楽しめます。そして吉松自身の曲「アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番」はプログレっぽいフレーズが次から次へと出てくるのでニヤニヤしながら聴ける曲。実際のコンサートでは冒頭に演奏されたから仕方ないけど、アルバムの最後を締めくくるにはちょっと軽いかな。ここは交響曲第2番「地球にて」あたりを追加収録してくれればもっと面白くなったような気がします。

というわけで、このアルバムで吉松隆に興味をもった方は、上述の「地球にて」をはじめ、初期の佳曲「朱鷺によせる哀歌」など、鳥に関するシリーズを収録したアルバム「鳥たちの時代」を聴いてみることをお薦めします。

鳥たちの時代

鳥たちの時代