林葉直子『とんでもポリス ラブコールはSOS』

いきなり何だ、と思われる方も多いでしょうが、先日あんころさんとの対局に破れ、罰ゲームとしてこの本の感想文を書くことを指定されたのですね。
林葉直子といえば、波乱万丈すぎる人生を歩んできているのは承知の通りですが、今度15年振りに将棋に復帰することになり、ちょっとした話題になっているのです。なのでここでこの本を取り上げるのはある意味時宜にかなったことと言えなくもありません(^^;)。
彼女はまだ棋士活動を行っているうちから作家としても活躍をしていて、代表作がこの「とんでもポリス」略して“とんポリ”シリーズです。今回取り上げた「ラブコールはSOS」は2作目にあたる長編で、1988年に講談社X文庫から発売されました。当時はまだライトノベルという言葉は無かったと思いますが、これは立派なライトノベルですね。主人公は徳川忍という女の子で、彼女が恋人である松前刑事と力をあわせて事件を解決するという話なのです。もちろんリアリズムというものは無視した世界で、主人公の忍は総理大臣の娘で変装が得意という設定。松前刑事とは熱愛中で、アツアツぶりを披露しながら事件に臨むという内容なので、いわば今風おとぎ話として読むしかない。中身についてあれこれツッコんでもしょうがないんです(^^;)。なので感想は非常に書きにくいのですが、さすがに20年以上前の作品だけあって、描写のそこかしこに時代を感じさせるところが面白かったですね。例えば、イケメンの外人をデビッド・ボウイに例えたり、友達へのイタズラにブーブークッションを使ったりするところなどですが、とびきりなのは、作者が司会をつとめ、主人公の忍と松前刑事が読者への質問に答える、という設定のあとがきでした。ファーストキッスの味についての質問について、ずっとはぐらかし続けるのですが、最後の最後に作者が答えた言葉がこれ。歳月の重みを感じずにはいられませんでした(^^;)。

「(前略)いいですか、つまりですネ、二人がキスの味を説明できないというのは、トホホホッ、ウェーン、ウェーン、シクシク、私が、ファーストキスがまだということなのよぉぉ」
もてない永遠の美女 林葉直子でした―。