5/30 エサ=ペッカ・サロネン指揮/フィルハーモニア管弦楽団@東京芸術劇場大ホール

日曜日は池袋の東京芸術劇場へ行って来ました。エサ=ペッカ・サロネンフィルハーモニア管弦楽団だけでも魅力的ですが、今年はそこに大好きなヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが加わりチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏するのですからたまりません。会場もぎっしりと満員でした。
まず1曲目は作曲家でもあるサロネンの作品「ヘリックス」。打楽器が重いビートを刻む中、徐々に盛り上がっていく音楽で、それほど難解な曲ではありませんでしたが、ウォーミング・アップ的な印象になってしまったのはしかたがないかもしれません。なにしろ私も含めほとんどの観客が次の曲になるのをわくわくしながら待っていたのですから。

期待の熱気が高まる中、いよいよヒラリー・ハーンの登場です。鮮やかな紅のドレスで彼女が舞台に現れた瞬間、ぱっとステージが華やぎました。ハーンとサロネンは数年前シェーンベルクシベリウスのヴァイオリン協奏曲を録音しており、気心は知れているでしょう。今回のチャイコフスキーは数日前アルバムが出たばかり(指揮はワシーリ・ベトレンコ)。なんでも普段よく演奏されているアウアー版ではなく、チャイコフスキーのオリジナル版に基づいて演奏しているというのが特徴で、当然この日もオリジナル版によるものでした。演奏は期待通りの見事なもの。この曲のもつ民族音楽的要素を際立たせたり、華やかなテクニックを見せ付けるようなことはあえて抑えた渋いアプローチでしたが、私にとっては好ましいもの。なによりもチューブから出てきたばかりの絵の具のようにつややかな中・低音域、銀の糸のようにきらめく高音域・・・最初の一音からハーンのヴァイオリンから発する音の美しさに酔いしれました。アンコールはバッハの「サラバンド」(しっかりした日本語で自ら曲紹介をした)。これもしっとりと聴かせる演奏で堪能しました。

もうこれで充分チケット代のもとは取った気分になりましたが、ハイライトはこの後に待っていました。曲はシベリウス交響曲第2番。シベリウス交響曲は大好きですが、普段聴くのは専ら4番以降後期の諸作ばかり。まあ、後期の曲じゃ渋すぎてコンサートの締めにはならないからね・・・なんて感じで特に大きな期待はしていなかったのですが、それだけにこの日の演奏には驚かされました。フィルハーモニア管弦楽団は透明感のある柔らかい響きが持ち味ではあるものの、そんなにエネルギッシュな印象はなかったのですが、この日は柔らかさと透明感はそのまま保ちながら、なおかつエネルギーに溢れた壮大な音空間を展開してくれたのです。チャイコフスキーのときはヒラリー・ハーンを立てていたような感のあるサロネンがここにいたってようやく「今日の主役は俺たちだぜ!」といわんばかりの大きな身振りで指揮をとり、オーケストラもそれに応えて音楽を盛り上げていきました。シベリウスの2番に対する認識が改まるぐらいの熱演だったし、フィルハーモニア管の魅力も再認識させられました。終了後はハーンの時に勝るとも劣らない万雷の拍手が起こったのも当然でしょう。

興奮さめやらぬ中アンコール。なんと3曲も披露してくれました。全てシベリウスで、まずは付随音楽「ペレアスとメリザンド」より第8曲「メリザンドの死」。こちらは彼らの“静”の魅力を聴かせてくれたしっとりとした演奏で、弦のアンサンブルが美しかったです。続いて組曲「カレリア」より第3曲「行進曲風に」こちらは一転、軽快な音楽。そして最後は付随音楽「カレワラ」より名曲「悲しいワルツ」で締めくくり。本当に素晴らしいコンサートでした。