ジム・オルーク『オール・カインズ・オブ・ピープル〜ラヴ・バート・バカラック』

甘そうな砂糖菓子なのに、口に含めば人生の複雑な味がする。それがバカラック音楽の神髄だ。
ジム・オルーク

ジム・オルークによるバカラック作品集。例えばバカラックの複雑なハーモニーにノイズ・ミュージックとの共通点を見出し、そこにスポットを当てた解釈というのもジム・オルークなら可能だったと思うのですが、ここでの彼が選んだアプローチは、シンプルなサウンドバカラック楽曲の骨格を浮かび上がらせるというものでした。基本はピアノ・トリオ+ヴォーカル。しかしピアニストやヴォーカリストを曲によって使い分けて、バカラック音楽の“複雑な味”を表現することに成功しています。なかでもヴォーカリストの選び方がユニークで、細野晴臣のように決してバカラックの曲に向いているとは思えないタイプのシンガーを起用して奇妙な効果をあげているかと思えば、ドナ・テイラーが歌う「ウォーク・オン・バイ」のような本格的なスタイルもあったりして、一筋縄ではいきません。もちろん普通にポップ・ソング集としても楽しめますが、それぞれの曲から見えてくるものがこれまでのバカラック・カヴァー集に比べて格段に多い。ジョン・ゾーンがかつて試みた“ユダヤ音楽”としてのバカラックや、ヴァン・ダイク・パークスとの共通性、ソウル・ミュージックとの親近性など、バカラック音楽の多面性をここまで引き出したカヴァー・アルバムはちょっとなかったように思えます。この感じでジム・オルークには20世紀のポップ・ミュージックを新たに捉えなおすアルバムをもっとつくって欲しいですね。アントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァー・アルバムなんて面白そうな気がするけど、どうかなあ?