マウリツィオ・ポリーニ『バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻』

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

これまでリサイタルでは何度か取り上げていたそうですが、録音としては初となるバッハです。聴きはじめてすぐ、リヒテル盤を思わせる柔らかい響きに驚かされましたが、音が芯から光っているような音色と明朗な音楽のつくりはやはりポリーニならではのものです。とはいえ、ここにはかつてのショパンエチュードブーレーズソナタなどに見られた切れ味はなく、賛否が分かれそうなところです。しかし、ここでのポリーニはそれぞれの曲の良さを自然に描き出していて、細部の構造やアプローチがどうこうという前に「平均律クラヴィーア曲集」には素晴らしい曲が揃っているという、極めて基本的な事実に改めて目を開かせてくれるのです。個人的にはひとつひとつの曲の魅力をこれほどまでにはっきりと伝えてくれた演奏に接したのは初めてでした。奇抜さやこれみよがしな解釈からは限りなく対極にある“偉大なる中庸”と称えたい名演。