10/6 フィリップ・アントルモン ピアノリサイタル@浜離宮朝日ホール

ピアニストとしても、指揮者としても精力的な活動を行っているフィリップ・アントルモンのリサイタルに行ってきました。実はあまり彼の演奏を聴いたことはなかったのですが、ファンの方の誘いを受けていそいそと会場へ赴いた次第です。会場でパンフレットをもらうまで演奏曲目も知らなかったのですが、中に入ると真っ先に目に飛び込んできたのがステージに置かれたベーゼンドルファー。ベーゼンを生で聴いたことはほとんど無かったので、これだけでも期待に胸が震えるには充分でした。
当日のステージは2部構成。まず前半はベートーヴェン「月光」と「熱情」です。定刻になり堂々とした体躯をもつアントルモンが入場。椅子に座るやいなやすぐに「月光」第1楽章冒頭のアルペジオを弾き始めました。最初の数音で普段耳慣れたスタインウェイとはまったく違う音であることがはっきりとわかります。深い低音の響きが空間を包み込み、中音部から高音部は絹のような滑らかさです。ふわっとした空気感がありながらも細部はぼやけることのない独特のアンビエンスは、どこかダニエル・ラノワのサウンドを思わせるものがありました。これはアントルモンの個性なのかベーゼンドルファーの特徴なのかよくわからない―おそらく両方なのでしょう―のですが、柔和で芳醇な世界がそこにはありました。「熱情」でも基本的にその世界は変わらず。ただアントルモンも緊張がほぐれたのか、こちらの方がより自由に弾いていたような印象があります。特に2楽章の美しさには陶然とさせられました。
休憩を挟んで後半はジョパン集。「ポロネーズ第1番」「ワルツ第3番」「ワルツ第1番:華麗なる大円舞曲」「バラード第3番」「ノクターン第8番」「スケルツォ第2番」が次々と奏でられていきました。アントルモンはせっかちなのか、拍手が鳴り止まないうちからすぐに弾き始め、曲間もあまりとらないでどんどん弾き進めていくのですが、演奏にはせわしなさがみじんも感じられなかったのは当然とはいえさすがです。煌びやかなショパンではなく、マイルドな響きのショパンが私には新鮮に感じられました。
アンコールはフランスものを2曲。ドビュッシー「水面に映る影」(「映像」第1集の曲ですね)とラヴェル「水の戯れ」という“水つながり”でした。どちらも快適な演奏だったのですが、やや早めのテンポで始まり、中間部では緩急自在の展開で水面のゆらぎを鮮やかに表現したドビュッシーが特に印象深かったです。
久々にピアノの芳醇な響きに身を浸すことができたコンサートでした。明日の寺沢希美(ヴァイオリン)とのデュオ・リサイタルにも行く予定なのですが、台風が心配です・・・・。