ザ・ビートルズ『ラバー・ソウル』

ラバー・ソウル

ラバー・ソウル

レコーディング・アーティストへの大きな一歩を踏み出した重要作ですが、複雑なサウンドという印象は受けません。しかし、4トラック・レコーダーの導入以降、ダブル・トラッキング・ヴォーカルやパーカッションの重ね録り、キーボードの本格的な導入などサウンドを厚くする方向で変化してきた彼らがここでは一旦サウンドをシェイプアップ。「ノルウェーの森」のシタールや「嘘つき女」のファズ・ベース、「イン・マイ・ライフ」のピアノなど、曲ごとにポイントとなるアイディアを分かりやすく表出させた結果、楽曲自体の深化とあいまって、これまでと異なる新しい世界が展開されていることを聴く者に感じさせることに成功したのです。ジョン主体の曲が押しまくるだけではなく、前作からの延長で内省的なものが増え、そのことがアルバム全体のカラーを決定づけています。アコースティックな感触が強いアルバムですが、『フォー・セール』とは全く違う世界が広がっていることには驚かざるを得ません。ポール、ジョージの存在感もますます増してグループ全体のパワーがアップしていることが穏やかなサウンドの中からもはっきりと感じることができるのです。アルバムそれ自体が充実していることはもちろん、次なる局面への鼓動が脈打つスリリングな傑作。