ザ・ビートルズ『ヘルプ!』

ヘルプ!

ヘルプ!

ビートルズはとりあえずどれを聴いておけばいい?」と尋ねられたら「とりあえず全曲聴いておきな」と答えている私ですが(^^;)、そうはいっても聴く回数が他と比べて少ないアルバムはあります。他ならぬこの『ヘルプ!』がそれです。『ハード・デイズ・ナイト』以来の映画のサントラで、LPでは映画に使用した曲がA面、その他の曲をB面にまとめた構成は同じですが、A面に負けない強力な楽曲がつるべ打ちだった『ハード・デイズ・ナイト』に比べると、こちらのB面曲は今ひとつ(ビートルズにしては)魅力に欠けます。何言ってるんだ、B面には「イエスタデイ」があるじゃないかって?うーん、ポールにはもっといい曲がいくらでもありますからねえ。その前に置かれた「夢の人」の方がはるかに素晴らしく、この曲がB面のベストでしょう。後年、ジョンが「ビートルズ時代でもっとも嫌いな曲」と語った「イッツ・オンリー・ラヴ」はそこまでひどいとは思いませんが、確かに「ヘルプ!」や「悲しみはぶっとばせ」と比べちゃうと単純すぎるきらいがありますね。B面でジョンがリード・ヴォーカルをとった曲はこれとカヴァーの「ディジー・ミス・リジー」。曲単体としてはカッコいい「ディジー・ミス・リジー」のカヴァーもアルバム全体ではどうもとってつけた感がぬぐえません。このことがB面がA面に比べて魅力に欠ける(と私には思われる)ものにしている一番の原因でしょう。パーカッションの使い方が面白いポール曲「テル・ミー・ホワット・ユー・シー」もどうもピンと来ないんですねえ・・・もっともリマスター効果でパーカッションがくっきり聴こえるようになって、少しイメージ・アップしましたが(^^;)。
ネガティヴな感想から始めてしまいましたが、映画に使用された新曲はビートルズの魅力全開。疾走感と、ムーンライダーズが『最後の晩餐』中の「Come sta ,Tokyo?」で模倣したコーラス・ワークが聴ける名曲「ヘルプ!」。高橋幸宏が最近見事なカヴァー・ヴァージョンを披露した「悲しみはぶっとばせ」。映画での楽しそうなセッション風景が印象的だった「恋のアドバイス」、ポールのアイディアによるリズム・アレンジが見事な「涙の乗車券」とジョン主体の曲がとにかく素晴らしい。その中に混じってポール、ジョージも独自の存在感を示しています。アルバムとしては中途半端な出来ですが、初期と『ラバー・ソウル』以降の中期の架け橋となる重要な一枚であることは確か。やはりビートルズは黙って全曲聴くしかなさそうです(^^;)。