ザ・ビートルズ『ビートルズ・フォー・セール』

ビートルズ・フォー・セール

ビートルズ・フォー・セール

前作では全てオリジナルで固めたビートルズも、このアルバムではハード・スケジュールのため充分な数の新曲を用意できず、再びオリジナルとカヴァーが混在する構成となりました。しかしジョンとポールのソングライティング能力がどんどん向上しているので、オリジナルとカバーの楽曲自体のもつ感覚に差が出ているように思えるんですね。とはいっても、ジョンとポールのロックンロール・シンガーとしての素晴らしさが堪能できる「ロック・アンド・ロール・ミュージック」、「カンサス・シティ/ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ!」やジョンの名唱が光る「ミスター・ムーンライト」など、カヴァー曲だからといって否定するにはもったいない名演そろいなのですから困ります(^^;)。
オリジナルの方は出だしの3曲がとにかく素晴らしい。「アイル・ビー・バック」の流れを受け継いだ「ノー・リプライ」。ディランの影響とカントリー・タッチの演奏が溶け合った「アイム・ア・ルーザー」は後の「アイム・ソー・タイアード」などにつながる地味ながらも重要な曲。そしてワルツ・ビートに乗せてジョンとポールのツイン・ヴォーカルで全編押し通した「ベイビーズ・イン・ブラック」。どの曲も時間がないなかつくられたとは思えない魅力をもっています。このインパクトが大きすぎて、正直アルバム後半はややパワー不足に感じてしまうのが残念。「エヴリ・リトル・シング」のような味のある曲もあるんですけどね。全体を通してはアコースティックな感触とカントリー・テイストの導入が新機軸。最初に聴いたときは、地味すぎるアルバムなんじゃない?と思っていたのですが、何度も聴き返すうちに良さがしみてきました。特に今回のリマスターで、ジョンの弾くアコギやツイン・ヴォーカルの分離が良くなったのもうれしいところ。初期のアルバム中では最もリマスターによって魅力が増したアルバムではないでしょうか。