ザ・ビートルズ『ア・ハード・デイズ・ナイト』

ハード・デイズ・ナイト

ハード・デイズ・ナイト

ピーター・バラカンビートルズ体験を語ったインタビューの中で「聴き手の視野が突然、ボンッとワイドスクリーンになっちゃうわけ。そういうのが何度もあったね、ビートルズは」と語っています。初めてこのアルバムの最初の一音を聴いた多くのファンも同じような体験をしたのではないでしょうか。ロック史に残るイントロのひとつであるタイトル曲からスタートするこのアルバムは、初期ビートルズの最高傑作。そしてジョン・レノンの生涯を通しても最高の一枚といえるのではないでしょうか。いや、ポールだってがんばっているんですよ。「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「キャント・バイ・ミー・ラヴ」「今日の誓い」どれもロック・スタンダードとなった名曲です。しかしこのアルバムでのジョンはそれを上回るものすごさ。なにせ、残りの10曲は全て彼のペンによるもの(ポールとの共作含む)。激しいロック・ナンバーだけではなく、「恋におちたら」のようなバラードも書くようになり、作風に幅が出ました。ことに映画に使われなかった楽曲を収めた後半(LPではB面)の曲が特に魅力的で、「エニイ・タイム・アット・オール」やニルソンのカヴァー・ヴァージョンでも知られる「ユー・キャント・ドゥー・ザット」、最後を締めくくる名曲「アイル・ビー・バック」などロックン・ローラー。ジョン・レノンが最高に輝いてる瞬間がこれらの楽曲には満ち満ちています。
もちろん、これはジョンのソロではなく、ビートルズのアルバムであることを忘れてはいけません。ジョージが導入した12弦ギターのキラキラした音色は、これまでに比べてぐっとカラフルになったアルバム・サウンドに大きく貢献しているし、リンゴのドラムだってなかなかのものです。その他にも4トラック・レコーダーの採用やダブル・トラックのヴォーカルの多用など、メンバーとスタッフ全員が一丸となって新しいサウンドを追求していくビートルズの姿がいよいよあらわになってきた記念すべき一枚でもあります。