ムーンライダーズ『TOKYO 7』

Tokyo7

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“こんどのアルバムは『青空百景』を思わせる”過去にもこれに類する言葉を何度か聞いたことがありました。実際は全く違っていたわけですが(笑)。しかし、何度目の正直か、確かに『青空百景』をホーフツとさせるアルバムがここに登場しました。これほど聴き終えた後もたれないムーンライダーズのアルバムは久しぶりです。90年代以降の彼らのアルバムは多かれ少なかれ、聴き終えた後は歓びと共に混沌とした感触、ずっしりとした重さが残るのが常でした。むしろその混沌にこそ私は惹かれていたので、それを減らす方針でつくられた『A.O.R』や『月面讃歌』には物足りなさを感じずにはいられなかったのですね。どうせやるならこれらのような濃さを水で薄めたようなアルバムじゃなくて(この2枚を好きな方には申し訳ないのですが・・・)、濃厚でありながらも突き抜けたPOPさをもつアルバム、それこそ『青空百景』や『アマチュア・アカデミー』のようなものをまた出してくれたらうれしいとは思っていたのですが、まさか実現するとは思っていませんでした。
冒頭の「タブラ・ラサ〜When rock was young〜」のイントロで聴かれる、アコギと奔放なギターの見通しの良いサウンドで視界がぱっと開けたような爽快感を感じたのですが、これが最後まで持続します。ふーちゃんのブルースも彼のソロならもっとパーソナルな感じになっていたと思いますが、ここでは軽快な雰囲気。全体的にそうなのですが、特に白井のギターやくじらのヴァイオリンの響きがクリアで瑞々しい。カオティックな要素は慶一のソロで吐き出したので、ムーンライダーズの方はよりクリアな方向にベクトルが向いたのでしょうか。クリアなサウンド、といってもポスト・ロックを通過した現在のクリアさになっているのがさすが。そのため最後の「6つの来し方行く末」も過度に感傷的にならずに、メンバーのそれぞれに思いを馳せることができます。
それにしてもソロを出したばかりの慶一がこのアルバムでも4曲提供と創作意欲に溢れているのがすごいですね。彼のエネルギーがバンド全体を若返らせたかのような気がします。反面、かしぶち曲が1曲しかないのがちょっとさびしいのですが、これはもうすぐ出る久々のソロ・アルバムまで待つこととしましょう。