ジャキス・モレレンバウムと共に色彩豊かな音楽をつくりつづけてきた
カエターノ・ヴェローゾですが、前作「セー」では一転、息子と同世代の若手とバンドを組み、カエターノ流の
オルタナティヴ・ロックを鳴らしてびっくりさせてくれました。そして同じバンド・メンバーと共に録音されたのが本作。前作にみられた鋭さに、しなやかさが加わって音楽の懐が一層深くなっています。もともとは『トランサンバ(超サンバ)』というタイトルが予定されていたというように、サンバを
オルタナティヴ・ロックのスタイルで表現するというのが本作の根幹を成しており、シンプルなバンド・
サウンドでありながら、リズムの解釈などが明らかにロックと一線を画しているのが特徴です。隙間の多いバンド・
サウンドに相変わらず官能的なカエターノのヴォーカルが絡んでくるだけでも充分刺激的なのですが、カエターノの歌に負けず劣らず素晴らしいのがペドロ・サーのギター。かつてカエターノの来日公演でものすごいカッティングを披露してくれたこともある気鋭のギタリストですが、このアルバムでもまるで生きもののようなしなやかな演奏を随所に聴かせてくれて、予備知識なしではサンバが基になっているとは思えない新鮮な響きと生命感をアルバムに注入しているのです。