ソロ・アーティストとしても順調にキャリアを重ねるダニエル・ラノワの1st。
ブライアン・イーノの片腕だったとか、
ピーター・ゲイブリエルや
U2,
ボブ・ディランなどのビッグ・アーティストを手がけるプロデューサーである、などの印象から現代音楽的な
サウンドや華やかなアルバムを予想すると裏切られることになります。ここに聴かれるのは
ピーター・バラカンも述べているように、古い
アメリカン・フォークの香りがする一見素朴な音楽だからです。もちろん、一見素朴に聴こえる裏にはレコーディングの達人であるラノワらしいアプローチが随所になされていて、独特のエコー処理や、ネヴィル・ブラザーズのアルバムをプロデュースした際の音源を巧みに再利用したりするなど、優れたエンジニアでもあるラノワならではの工夫が光ります。ラノワはカナダ、
ケベック州の出身であり、アルバム・タイトルの「
アカディ」はカナダのアケイディア地域を指す言葉ですから、このアルバムはラノワ流“ルーツ・ミュージック”といえるかもしれません。ただし、録音は
ニューオリンズで主としてなされており先にも記したとおり、
アメリカン・フォーク的な印象を残す曲が多いのが面白いところ。このアルバムの隣に置くべきなのは、ラノワが関わっているイーノや
U2のアルバムではありません。ラノワと同じくカナダ出身でありながら、
アメリカン・ルーツ・ミュージックの探訪に出た、
ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』なのです。