トーマス・フェイナー&エニーウェン『ジ・オピエイツ・リヴァイズド』

ジ・オピエイツ・リヴァイズド

ジ・オピエイツ・リヴァイズド

現在、最も注目すべきレーベルにデヴィッド・シルヴィアンが主宰するサマディサウンドがあります。デヴィッド自身の傑作『ブレミッシュ』のリリースを皮切りに、デレク・ベイリーハロルド・バッド、スティーヴ・ジャンセンなどの作品を世に送り出しており、そのどれもが質の高いものとなっています。
このトーマス・フェイナー&エニーウェンのアルバムもサマディサウンドから今年になって発売されたもの。しかし、このアルバムは実は新作ではありません。オリジナルは7年前の2001年に発表されていたものでした。それもレコーディングの時点でバンドは既に空中分解しており、大半をトーマス・フェイナーが一人でつくりあげたのです。ようやく発売までこぎつけたものの、当時はほとんど話題になることはありませんでした。
このまま世に埋もれたまま忘れられてしまう一枚となりかけていた本作の運命を一転させたのは、1本の映画がきっかけでした。2004年に制作されたドイツ映画「青い棘」のトーマスのソロ曲が2曲使用されたのです。その映画を見たデヴィッド・シルヴィアンはトーマスの持つ“声の重力”に魅了されました。そしてひっそりと眠っていた本作を発見。トーマスをサマディサウンドに迎え入れ、アルバムに「青い棘」で使われた2曲を加え、装いを改めて『ジ・オピエイツ・リヴァイズド』を世に問うたのです。
冒頭の、ワルシャワ・ラジオ・シンフォニーによる劇的なストリングス・サウンドと重く沈みこむビートをバックに歌われる「サイレン・ソング」を聴いたときは、デヴィッド・シルヴィアンピーター・ガブリエルの中間に位置する声という印象を持ちましたが、彼の本領はその後のシンプルなサウンドの中で聴ける、苦みの中にほんの少しの甘さをにじませたバリトン・ヴォイスにあります。デヴィッド・シルヴィアンのアルバムで例えるなら『シークレッツ・オブ・ザ・ビーハイブ』と『デッド・ビーズ・オン・ア・ケーク』辺りに近い。それにブルー・ナイルの持つ憂愁と孤独感を彼の声は併せもっています。なるほどシルヴィアンが心惹かれたのも納得。じっくりと耳を傾けて聴きたいヴォーカル・アルバムです。ちなみにジャケットはオリジナルとは異なり、デヴィッド・シルヴィアンがアート・ディレクションを担当したものと替えられています。写真はトーマスではなくてジャン・コクトー

Thomas Feiner & Anywhen - For Now

シルヴィアンがトーマスを知るきっかけとなった映画「青い棘」に使用された曲。

Thomas Feiner & Anywhen - The Siren Songs

アルバム中最も激しい曲。上の文章でも触れたとおり、ワルシャワ・ラジオ・シンフォニーによるストリングス・サウンドが印象的です。