キング・クリムゾン『暗黒の世界』
- アーティスト: キング・クリムゾン
- 出版社/メーカー: WHDエンタテインメント
- 発売日: 2006/02/22
- メディア: CD
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さて、久々に取り上げるキング・クリムゾンです。『太陽と戦慄』と『レッド』に挟まれたアルバムで、両者に比べるとやや影が薄い印象があるかもしれませんが、私が一番好きなクリムゾンの作品。LPで聴いていた中学生の頃、B面をスピーカーの前で正座して聴いていたものでした。凄まじい緊張感に身動きができなくなっていたのかもしれません。前作『太陽と戦慄』で大活躍したパーカッションのジェイミー・ミューアは脱退したものの、多くのライヴをこなしバンド・アンサンブルの緊密さがピークに達していた時期だけに、どの曲でも緩みない演奏が聴けます。収録曲の半分以上がライヴ音源をベースにしていたことをかなり後になってから知り驚いたものです。ライヴの勢いとスタジオ録音の精密さを両立させようとしたフリップの判断によるものでしょうか。だとしたらその判断は吉と出ました。今では元となったライヴの音源を聴くこともできますが、それでもこのアルバムの価値は下がりません。
前半は小曲がならびます。「偉大なる詐欺師」の狂暴なサウンド、「人々の歎き」でのジョン・ウェットンの哀愁あるヴォーカルなどそれぞれの曲で聴くべきところは多いのですが、白眉はレンブラント「夜警」から歌詞のインスピレーションを得たという「夜を支配する人」。荘厳な前奏もさることながら、ロバート・フリップのギター・ソロが叙情に流れすぎない見事なもの。後年ピーター・ガブリエルの曲「ホワイト・シャドウ」で聴かせたソロがこれに近い味わいで、初めて接したときうれしかったことを思い出します。そして後半は大作2曲。独立した作品ですが、2楽章形式の大曲として捉えることもできる程全体を通して流れる雰囲気に共通したものがあります。力を溜めに溜めて最後に一気に爆発させる「突破口」はクリムゾンが残した記念碑的楽曲のひとつといっていいでしょう。
今回改めて全体を聴き返してみて、ビル・ブルフォードはこのアルバムで“化けた”のだと思いました。もちろんイエス在籍時から優れたドラマーであったわけですが、ジェイミー・ミューアが脱退したため、ドラムスだけではなくパーカッションもこなさなくてはならなくなったことで、演奏の幅がぐっと広がったように感じられます。今はフリップと袂を分かち独自の活動を続けているブルフォードですが、この時期の自分の演奏についてどう思っているか聞いてみたいものですね。