コシミハル久々の新作は全12曲で35分足らずのコンパクトなヴォリュームですが、内容は彼女の集大成といってもいいくらいの充実ぶりです。デイ
ジーワールド再開で最も楽しみにしていたアルバムだったのですが、期待以上でした。『エコー・ド・ミハル』の頃から追い求めていた、1930〜1940年代の音像を現代のテク
ノロジーで再現する試みも、かつての
キッチュな感触がすっかり無くなり堂に入ったものとなっています。流行とは一線を画しながらも単なる
ノスタルジアに終わらないバランス感覚も見事。それにしても不思議な立ち位置にいる音
楽家です。フランス語で可憐なヴォーカルを聴かせても、いわゆる“
フレンチ・ポップ”や“
シャンソン”とは全く異なり、フランス音楽の影響といっても例えば
坂本龍一に代表されるような
ドビュッシーではなくて、
プーランクやミヨーの色彩の方が濃い。この点では元
ゲルニカ・上野耕一と共通しているのですが(上野は彼女のベスト盤に音楽性を分析したエッセイを寄稿しています)、少なくても表面的な感触はかなり異なります。似たようなことをやっている人がいそうでいない。このような音楽がこうして普通に入手できてしまうなんて、実はとてもすごいことかもしれません。