スパークス『エキゾチック・クリーチャーズ・オブ・ザ・ディープ』

Exotic Creatures of the Deep (Mlps)

Exotic Creatures of the Deep (Mlps)

強すぎる個性はマンネリ化の危険を孕む。さしものスパークスも80年代中盤にはその弊を免れることはできなかったと思います。しかし近年の彼らは絶好調。どこをとってもスパークス印の音楽なのですが、マンネリなど軽く吹き飛ばす勢いがあるのです。今なお印象深い前回の来日公演では、長年のファンのみならず、初めて彼らの音楽に接した人をも虜にする素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。今年になっても過去に発表した21枚のオリジナル・アルバムを全曲ライヴで再現するという途方もない試みを行ったばかりだし、余勢をかってフジロックにまで出演するのですから、そんじょそこらの若手バンドよりはるかに精力的といえるのではないでしょうか。
この新作はそんな彼らの充実振りがしっかりと刻み込まれた素晴らしい出来となっています。基本的には前々作『Lil' Beethoven』から前作『ハロー・ヤング・ラヴァーズ』の流れにつながる、フレーズの反復が生み出すダイナミズムと幾重にも重ねられたハーモニーにクラシカルなアレンジを融合させた、スパークス流ロック・オペラ路線なのですが、ピアノの響きが目立つ今作はこれまでより軽やかな印象を与えます。モリッシーのことを歌った曲もあるなど、独自のセンスも健在。“枯れる”という言葉がこれほど似合わないベテランも珍しいですね。