7/19 山下洋輔“SPECIAL BIG BAND”CONCERT 2008@オーチャードホール

ビッグバンドの魅力をたっぷりと楽しむことが出来たコンサートに行ってきました。山下洋輔の下へ実力者のミュージシャンが揃ったスペシャル・ビッグバンドのコンサートです。メンバーは山下の他にトランペット・セクションがエリック宮城・佐々木史郎木幡光邦・高瀬龍一。トロンボーン・セクションに松本治(この日のほとんどの曲のアレンジを手がけ、曲によっては指揮を務めていました)・中川英二郎・片岡雄三・山城純子。サックス・セクションは池田篤・米田裕也・川嶋哲郎・竹野昌邦・小池修。そしてリズム・セクションとしてベース・金子健、ドラムス・高橋信之介といった面々でした。


まずはエリントン・ナンバー「ロッキン・イン・リズム」でスタート。ドラムスのイントロに導かれてホーン・セクションがテーマを奏でた瞬間から、そのゴージャスな響きとスピード感あふれる演奏に魅了されました。ホーンの響きもさることながら、高橋信之介のドラムスが叩き出す、音楽をぐいぐい前に駆り立てていく力強いグルーヴが素晴らしい。中盤ではトランペット・セクションの4人が前に出てソロ回しを披露。ハイノートをがんがんぶつけてくるエリック宮城をはじめ、それぞれが早くもエンジン全開のエキサイティングな演奏で、こちらも高揚した気分になりました。
続いてビル・エヴァンスの代表曲「ワルツ・フォー・デビー」。これのビッグバンド版とはかなり珍しいでしょう。サックス陣が楽器をフルートに持ち替え、透明感のあるアンサンブルを聴かせてくれました。この辺り“ギル・エヴァンス以降”のビッグバンド・サウンドだなあと思いますね。
そして今度はクインテット編成による山下オリジナル「グルーヴィン・パレード」。メンバーの数が減ってもゴージャス感に変わりが無いのがすごい。山下がニューオリンズを意識して作曲したという楽曲ですが、高橋のドラム・ソロでセカンドライン・ファンクのビート感覚が出てきたところが聴き所。どんなに奔放にタムを叩きまくっていても、根っこのところをそのビート感覚が流れているんですね。会場の手拍子も「タン・タンタン・(ン)タンタン」といった感じに自然にシンコペーションがかかった程の強烈な力がありました。
再び全員がステージにそろい、第1部最後の曲ラヴェルボレロ」。山下ファンにとってはお馴染みのレパートリーですが、この日の演奏は松本治による野心的なアレンジのヴァージョンが披露されました。山下のピアノにより、ブルージーに色つけされたテーマから演奏が始まったのですが、なかなかドラムがあのビートを刻もうとしません。ホーン・セクションがあのメロディーを幻想的な色彩のハーモニーにくるんで繰り返す中、リズム・セクションは自由な演奏を繰り広げているのです。これはマイルス・デイヴィスが「ネフェルティティ」で試みたことを拡張しているのか!?と思った瞬間、一転してフリー・ジャズへと変化し、サックスが激しいソロを聴かせました。先の展開が全く見えません。そして再びホーン・アンサンブルがテーマを奏でるのですが、これが大きな波のうねりを思わせる迫力満点のサウンドでした。そしてエンディングへ。これまで聴いたことがない「ボレロ」で、これだけでも今日来た甲斐があったと思いましたよ。


休憩を挟んで第2部は、山下作「ベイ・スターズ・ジャンプ」から始まりました。横浜ベイスターズ・ファンの山下らしいタイトルの頬がゆるみます。スイングしまくる快適な演奏でした。2曲目も山下のオリジナルで「ファースト・ブリッジ」。山下らしい、パルス的な楽節を組み合わせてつくられた、ソロイストのセンスが反映されやすい曲でした。ここでも高橋の叩き出すビートがユニークで、かなり変則的に聴こえるのに、曲を前に進めていくグルーヴはそのままというもの。このビートに支えられて、ソリスト陣も新鮮なソロを披露してくれました。
そしていよいよコンサートの最後を締めくくる、ガーシュインラプソディ・イン・ブルー」。華やかなホーン・セクションが都会の華やぎを高らかに歌い上げ、山下の両手が鍵盤を縦横無尽にかけめぐります。山下のピアノ・ソロをたっぷりと聴かせるアレンジで、音の粒が絶え間なく次から次へと連なっていく様は圧巻でした。クライマックスでは肘打ちも炸裂。華麗でスケールの大きい名演でした。
アンコールは再びエリントン・ナンバー「スウィングしなけりゃ意味ないね」。エリントンに始まりエリントンに終わるコンサートでした。山下をエリントンとするなら、(演奏のみならず)アレンジで貢献した松本はビリー・ストレイホーンといった役どころとなるでしょう。その他のメンバーも一騎当千のツワモノ揃いのこのビッグバンドは、なるほど確かに21世紀のデューク・エリントン・オーケストラと呼ぶにふさわしいのでは。そう思わせるだけの魅力にあふれたサウンドを聴かせてくれました。またいつか彼らの演奏を聴いてみたいですね。