デッド・カン・ダンス『スピリット・チェイサー(聖なる水)』

スピリットチェイサー(聖なる水)<紙ジャケットCD>

スピリットチェイサー(聖なる水)<紙ジャケットCD>

4ADを代表するアーティストのひとつである、デッド・カン・ダンスのアルバムが紙ジャケ・リマスターで登場しました。
初期のアルバムではコクトー・ツインズなどと並んで、ヨーロッパ的な耽美な音世界を構築し、4ADのレーベル・カラーの確立に貢献した感のある彼らですが、彼らはその後も歩みを止めず、どんどんヨーロッパの古層に分け入っていきました。その第一歩となる『サーペンツ・エッグ』は“ダークなエンヤ”といった趣のある力作で前作までそれなりに残っていたロックの要素をここでふっきりました。続く『エイオン』はジャケットにヒエロニムス・ボスの絵を大胆にあしらったことからも窺えるように、中世〜ルネサンス期の古楽を追及。古楽志向といっても例えばジョン・レンボーンによる繊細なそれとは異なり、荘厳なイメージを残しているのがデッド・カン・ダンスの流儀。完成度の高い傑作で、かつて細野晴臣も高く評価していた一枚です。
さて、ヨーロッパの源流を求めてルネサンスまで遡ってしまった彼らですが、この先となるとどうなるでしょうか。ルネサンスの古典復興に大きな影響を与えたのはイスラム世界です。というわけで『イントゥ・ザ・ラビリンス』ではいわゆる“ヨーロッパ”的な世界が薄れ、アラビックな要素が目立ち始めます。そしてそれを更につきつめたのが今回取り上げた『スピリット・チェイサー』となります。
いまやエスニックなビートやメロディを取り入れた音楽はさほど珍しいとはいえませんが、その中にあってもここで聴くことができる音楽は刺激的です。彼らの持ち味である荘厳さはそのままに、ダイナミックな躍動感がそこに加わりました。「ニーリカ」のドローンやアフロ・パーカッションのかっこよさ。「インダス」ではアンビエントな音像にエスニックなこぶしが回るヴォーカルと、ビートルズ「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」を思わずにはいられないストリングスが絡む展開がスリリングです。その他の曲でもエスニックなビートと深い味わいのヴォーカルの組み合わせでじっくりと聴かせます。ルーツを追い求めた果てに見えてきたのは、もはや“ロック”からも“ヨーロッパ”からも遠く離れたアフロ、アラブ〜インド的な世界。そこがデッド・カン・ダンスが到達した最終地点でした。


それではアルバム収録曲から1曲。

デッド・カン・ダンス「星たちの歌」

中盤で聴かれるギター・リフが印象的な大曲。