第66期名人戦第1局

4/8,9と森内名人対羽生二冠による名人戦が椿山荘で戦われました。朝日新聞毎日新聞による共催として初めて(のはず)の名人戦。挑戦者の羽生二冠が名人を奪取すれば十九世名人となることもあり、名人戦の歴史の中でも大きな節目となりそうな対決です。この2人の顔合わせは将棋界のゴールデン・カードのひとつですが、気がかりなのは羽生二冠は棋王戦で佐藤二冠に2勝1敗の優位な条件から連敗して棋王位奪取を失敗。森内名人も年明けてからの成績が1勝5敗と両者やや調子を崩しているように見えることでしょう。果たして勝利の女神はどちらに微笑むか。将棋ファン注目の第1局です。大盤解説会も対局場である椿山荘、将棋会館の他に朝日、毎日の本社、そして新橋駅西口SL広場と東京だけでも5箇所で行われる熱の入りようでした。私は勤務先から乗り換えなしで行けるとあって、新橋SL広場に行ってきました。


新橋の解説は大内 延介九段、聞き手は藤森 奈津子女流三段。これに駒を動かす役目の若手がサポートとしてつくという体制。暮れなずむ街で世紀の一戦の解説に耳傾けるというのはなかなか乙なものでしたが、いかんせん昨日は寒かった(笑)。7時からはじまって9時までの2時間、運良く椅子に座れたとはいえ、ツライものがありましたね〜。でも大内九段の解説は言葉も聞き取りやすく、時に裏話や封じ手時間の変更などについての意見を述べながら丁寧に話を進めてくれて良かったです。解説会がスタートしたときは既に終盤の局面を迎えていたのですが、初手から解説してくれました。序盤は両者とも互いに相手の様子を見ながらジリジリと駒組みを進める展開で、大内九段も「なんでここで仕掛けなかったのかわからない」「どうして飛車を戻したんですかね」などと首をかしげながら指し手を進めていきました。事態が急変したのは58手目。羽生二冠が飛車切りの強襲を敢行したところからです。以下バタバタと進んで森内名人の王手銀取りを歩で受けたところからリアルタイム解説へ。既にのっぴきならない局面です。羽生二冠程の人が飛車切りを決断したのだから何か大技があるのでは、と解説に注目していたのですが、大内九段が予想した森内名人4四歩からの検討がどうやっても羽生二冠良しの展開になりません。あれれ、これって後手(羽生二冠)まずいのか?果たして会場に入ってきた森内名人の指し手は4四歩。さあ、どう凌ぐ羽生二冠!しかしほぼ大内九段の予想通りに手は進行していきます。森内名人もぐいぐい強気に攻めまくります。いきなりの激しい展開に大内九段がやや面食らった様子で「この将棋は激しさはあるけど、味わいとコクがないですねえ」と洩らしたのが印象的でした。
そうこうしている内、ついに後手玉受けなし。さあ羽生二冠の逆転はあるかの検討が始まりました。しかしかなり際どいところまで森内玉を追い詰めることはできそうですが、どうも足りないようです。検討はこんな調子で進みました。

大内九段:「(口だけで)ここでこう行って、ああなって・・・・これは玉がここに逃げるから(と一見ワープでもしなきゃ行けなさそうなところを指さす)だめか」
藤森女流三段:「あの、どうなれば玉がそこまで行くんですか」
大内九段:「こう行ったら、こうなるでしょ。そしてこうでしょ・・・」(と丁寧に駒を進めていく)「ほら、これでだめだ。詰まないよ。(サポートの若手に)君ならここでどうする?何かいい手があるか?」
若手:(無言で、しかし自信たっぷりに玉頭へ歩を打ちつける。そしてどうですか?と誇らしげに微笑みながら大内九段を見る)
大内九段:「それは二歩だ!」
会場爆笑。

結局最後まで大内九段の予想通りに進行。8時45分の時点でついに「ここか、後数手で後手投了でしょう。森内名人の勝ちを確信しました。今、手の報告が止まっているでしょ?これはきっと現場が忙しくなって報告する余裕がなくなっているんですよ。多分投了してますね。ということで解説会もここで終わりにしたいと思います。ありがとうございました」という大内九段の挨拶でお開きとなりました。果たして羽生二冠はほどなくして投了。インタビューでは「あの飛車切りは無かったですね」と語ったそうで、そうなるとどこかで読み違いがあったのか。謎が残る敗戦となりました。
都合がつけば第2局の解説会にも足を運びたいです。今度は少しでも温かい日でありますように(笑)。