石井桃子「幻の朱い実」

幻の朱い実〈上〉

幻の朱い実〈上〉

幻の朱い実〈下〉

幻の朱い実〈下〉

http://www.jiji.com/jc/c?g=obt_30&k=2008040300140
享年101歳。天寿を全うされたというべきでしょう。私を含め多くの方が日本語という言葉に接してまもないうちにこの方の仕事に出会っているはずですが、それは私たちにとっても、日本語にとっても幸せなことだったと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。


「幻の朱い実」は児童文学者として長年活動してきた著者が80歳を超えて初めて著した、自伝的な要素を含む大人向けの小説です。2人の主人公、明子さんと蕗子さんの心の交流を平易ながらも気品のある文章で丹念に綴った名作で、作品の多くを占める2人の手紙のやりとりが胸をうちます。この小説を読むまでは私にとって石井桃子は「小さいころよく読んでいた人」に過ぎなかったのですが、これを読んでからは大切な作家となりました。今さら「ノンちゃん」や「ピーターラビット」を読み返すのはちょっと照れくさい、と思っている人がいるならばぜひお勧めしたい小説です。