ピチカート・ファイヴ『ベリッシマ』

ベリッシマ

ベリッシマ

春になるとピチカート・ファイヴが聴きたくなりますね。2ndアルバム『ベリッシマ』はスイートなソウル・ミュージックの衣の下、小西康陽高浪慶太郎(当時)、田島貴男の3人がソングライターとしての覇を競った作品。発表当時は「日本でもここまで洗練されたポップスをやる人達が出てきたんだ!」と興奮したことを覚えています。“ニュー・ミュージックの終焉を告げる甘い毒薬”と賞賛する声があがる一方で“仏作って魂入れず”と酷評する人も出てきて評価がまっぷたつに分かれたのも懐かしい。どちらの言葉が正鵠を得ていたのかは聴く人それぞれが判断するしかありませんが、このうっとりするほど滑らかな音楽には、ただ安穏と聴きながすことを許さない棘が潜んでいたのです。どの曲も高い完成度を誇っていますが、なかでも田島の手による冒頭3曲の完成度が凄まじく、とりわけ果てしなく甘く響く耽美的なバラード「聖三角形」はこのアルバムを代表する1曲だと思います。間奏でソロを取る八木のぶ夫のハーモニカがたまりません。前作『カップルズ』のタイトルを使った「カップルズ」での高浪のヴォーカルもいいアクセントになっています。小西は曲もさることながら歌詞が冴えていて、作詞家としての最初のピークをここで迎えたといってもいいでしょう。3人のバランスがギリギリのところで拮抗していることが、適度なテンションをアルバムに与えているのです。
今はそれぞれの道を歩んでいる3人にこのアルバムのことを尋ねてもあまり肯定的な答えは返ってこないような気がします。けれども私にとってこのアルバムは今でも『カップルズ』と並ぶポップ・アンセムの一枚なのです。