ヴァン・ダイク・パークス『ソング・サイクル』

ソング・サイクル<紙ジャケットCD>

ソング・サイクル<紙ジャケットCD>

ヴァン・ダイク・パークスのアルバムの中でも、最も魅力的でありながら最も手ごわい一枚がデビュー・アルバムの『ソング・サイクル』。これほど聴く度に受ける印象が千変万化する音楽も珍しくて、美しいストリングスと優しい歌声に素直に浸れるときもあれば、とてつもなくアヴァンギャルドサウンド・コラージュを延々と聴かされている気分になるときもあります。甘さの中に潜む狂気―なんて大げさな表現もこの音楽には許されるでしょう。静謐な雰囲気をたたえたジャケットに騙されてはいけません。組曲的な構成、歪んだ深いエコー、多用されるサウンド・エフェクトが一体となって華麗でありながら狂騒的でもある一大音絵巻を織り成しているのです。
このアルバムの制作前にヴァン・ダイク・パークスが携わっていたプロジェクトといえば、もちろん当時未完に終わったビーチ・ボーイズ『スマイル』ですが、そのブート音源や『スマイリー・スマイル』などから感じられるサイケデリックなムードがこのソング・サイクルにも大きな影を落としていて、それが後年のバーバンク・サウンドとこのアルバムに一線を画しているといえるでしょう。例えばこのアルバムと同じく「ヴァイン・ストリート」を収録したハーパース・ビザールの『シークレット・ライフ・オブ・ハーパース・ビザール』を比べてみれば両者の違いがはっきりすると思います。白昼夢の世界に甘美に遊ばせてくれる『シークレット・ライフ・・・』に対し『ソング・サイクル』にはいい気持ちになっていると、とたんに悪夢に転落しそうな危うさが秘められているのです。もしかしたら『ソング・サイクル』の隣に並ぶのはバーバンク・サウンドの諸作よりも、キャプテン・ビーフハートトラウト・マスク・レプリカ』や、ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』。はたまたフランク・ザッパ『アンクル・ミート』やキング・クリムゾンクリムゾン・キングの宮殿』といったアルバムの方がふさわしいかもしれません。