菅野昭正編「石川淳コレクション」
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「“長編小説選”が特に無理があるよね。実質長編がひとつしか入ってないし」
「そこで“もし自分が編者になるならこうする”という案を出したいと思います」
「おお〜」
「まず3冊じゃ無理なので5冊編成にします」
「内訳は?」
「短編で一冊、中編で一冊、長編2冊、評論一冊。評論はこのままでいいでしょう。「レス・ノン・ヴェルバ」が無いとか不満を言い出したらきりがないけど、よくまとまっていると思います」
「もう少し詳しくいこうか」
「うん。まず短編からいくよ。「山桜」「無尽燈」「焼跡のイエス」「曽呂利咄」「おとしばなし李白」「家なき子」「霊薬十二神丹」「狼」「小林如泥」「夢応の鯉魚」「裸婦変相」「喜寿童女」「死後の花嫁」「金鶏」「鸚鵡石」」
「「諸国奇人伝」と「新釈雨月物語」からも選んでいるところに苦労のあとがしのばれるね(笑)」
「続いて中編。「普賢」「鷹」「虹」「紫苑物語」「修羅」「天馬賦」」
「これは読み応えあるね。でも一冊でおさまるのかな」
「でもこれくらいないと・・・。気にせず長編。一冊目は「白頭吟」、二冊目は「至福千年」。」
「ほほう、「荒魂」はカットですか。」
「泣く泣くね。その代わり、中編にプロトタイプといえる「虹」を入れた」
「「荒魂」はせめて書き出しだけでも紹介したいね。今まで読んだ小説の中で一番インパクトがあったもの。
佐太がうまれたときはすなはち殺されたときであつた。そして、これに非情の手を下したものは父親であつた。ただし、このおやじ、もともと気のちいさいやつで、コロシなんぞといふすさまじい気合はみじんも見られず、またそれがとくに人情に反する行為のやうにおもふわけもなかつた。山国の村は風あらく、家の中は吹きさらし同然、さうでなくても、やぶれ畳の上に余計なガキがすでに五箇もころがつてゐるところに、また一箇ふえたとすれば、いや、どこの家でも毎年一箇はふえることになつてゐたものとすれば、風俗はどういふことになるか。おやじは村のしきたり、すなわちおひとよしの秩序にしたがつて、畳からはみだした六番目の余計者を、裏の畑の林檎の木の下に、穴を掘つてうづめることにした。人間の子といつても、肉は畑の泥そつくり、一にぎりのふにやふにやしたやつに、イモの子ほどの生命力があるかどうか。ときに、林檎の実は大きくあかあかと照つて、決してこの土地にはとまつたことのない汽車が遠くにがーつとはしり過ぎて、村は晴天であつた。
個人的にはエンディングも好きなんだよね。花を投げるシーンで終わるのがいい。まあ、それはともかく、選んでみてどうでした?」
「うーん、選んでみたものの、なんか物足りないなあ。編者の苦労がわかったような気がするね」
「好きな作家ほど選ぶのはムズカシイということだね」
「ともあれ、石川淳は読むと元気になるんでもっと読まれてもいいと思うな。ということで今日はここまで」