デヴェンドラ・バンハート『スモーキー・ロールズ・ダウン・サンダー・キャニオン』

スモーキー・ロールズ・ダウン・サンダー・キャニオン

スモーキー・ロールズ・ダウン・サンダー・キャニオン

ショック太郎さんが「今聴くべきはDevendra BanhartとPerfumeなのです。」と言い切った程の傑作。現在最も刺激的な音楽を生み出す男の待望の新作です。私は前作『クリップル・クロウ』で初めて接したのですが、初期のマーク・ボランを思わせるサイケでアシッド・フォーキーな世界に一気に引き込まれました。当時は“フリー・フォーク”なる言葉が流行りつつありましたが、デヴェンドラの音楽は正にフリーなフォーク。かつてはヴァシュティ・バニヤンのような伝説的存在と共演を果たすなど、時代や国籍に囚われない奔放な音楽を生み出していたのです。


この新作ではその奔放さに一層磨きがかかったように思われます。ヴァシュティ・バニヤンがまたまた参加しておりますが、それだけではなく、なんとこれまた伝説的なフォーク・シンガーのリンダ・パーハックスとの共演まで実現してしまっています。しかし前作の延長線上の作品にはなっていないところがこの男のしたたかなところ。今回はフォーキーというより中南米音楽的なムードが漂う無国籍色が濃いものになっているのがユニークです。前作に感じられた初期マーク・ボラン的な雰囲気は薄れ、代わりに連想させるのはトロピカリズモ時代のカエターノ・ヴェローゾ。ぱっとした感じつかみどころがなさそうでいて、ぞっとする程美しい瞬間がチラチラと現れるのがたまりません。