11/4 音で聴く『電子音楽 in Japan』!<大阪万博から「初音ミク」まで、レコードで辿る電子音楽50年史>@TOKYO CULTURE CULTURE

日本の電子音楽の歴史を辿った名著「電子音楽 in Japan」とディスクガイド「電子音楽 In The(Lost)World」の著者、田中雄二が主宰するイベントに行って来ました。タイトル通り、2冊の著書で語られていた音源を実際に聴きながら改めて大阪万博から今に至る電子音楽の歴史を振り返ってみようというイベントです。16:00に始まり終わったのが20:15頃の長丁場。それでも時間が押して(曲を全部かけると12時間以上かかるというので(笑)、ほとんどがさわりだけだったにもかかわらず)予定していたコーナーのいくつかはカットせざるを得なかったという中味の濃い催しでした(トニー・マンスフィールド特集がなくなったのは残念!)。おおまかなイベントの流れをこれから追っていきます。なお、大変長文になってしまったので時間があるときにゆっくりとご覧ください。



開場時間の15:00に店内へ入ると、80年代のテクノ・ポップシーンを彩ったアーティスト達のPVやライヴ映像が映し出されていて、それだけでも楽しませてもらいました。ざっと記すとP-Model、サンディー&サンセッツ、ヴァージンVS、ムーンライダーズ、プラスティックス、高橋幸宏坂本龍一ジューシー・フルーツ、FOE、立花ハジメといったところ。本編でのテクノ歌謡コーナーはなくなっちゃいましたが、それを結果的にフォローしてくれたことになりましたね。
そして定刻に。YMO「テクノポリス」が店内に響き渡る中、主宰者の田中とゲストのばるぼら津田大介の両氏が入場。いよいよ第1部が始まりました。

第1部

1)前史

まずは本格的な電子音楽の歴史が始まるまでの先駆的な音源の紹介。ジャズに電子音をS.Eとして導入したAndre Hedier“Jazz et Jazz”を皮切りに、オンドマルトノを使用したメシアントゥーランガリラ交響曲」、クララ・ロックモアのテルミン演奏映像、きらびやかな音色が特徴の電子楽器「トラウトニウム」の音源などが紹介されていきました。ここはアペリティフのようなものですね。

2)海外の電子音楽の歴史

1940年代末から本格的にスタートした海外の電子音楽の歴史を国別に分類して、その特色を明快に解説しながら進行していきました。

<フランス>

具象音を編集して作り出す「ミュージック・コンクレート」(よくわからない方はビートルズ「レボーリューション9」を思い出してください)を発明したピエール・シェフェールの代表作「鉄道のエチュード」「ひとり男のためのシンフォニー」が紹介されました。なんでもこの頃はまだテープ編集の技術すらなくて、アセテート盤をカッティングしたものを編集してつくりあげたそうです。考えただけで気の遠くなる作業だなあ(笑)。

<ドイツ>

なんといっても電子音楽の本場はドイツ。シュトックハウゼンの初期音源などが紹介されました。

アメリカ>

現代音楽理論をつきつめた果てに生まれたドイツとは異なり、無手勝流なのがアメリカの電子音楽の特徴。ジョン・ケージ“Radio Music”やスティーヴ・ライヒの初期作品“Come out”、手を使わずに電子音を鳴らすことに挑戦したAlvin Lucierの映像等が流されていきました。変わったところではアンドリュー・シスターズの音源を変調させたJon Appletonの作品が印象的でしたね。

その他、フィリップス社のスタジオで録音されて、意外とPOPなオランダ、BBC内のスタジオで録音されたイギリスの音源も紹介されました。時報の音がいきなり音楽になる“Time to GO”が面白かったです。

3)海外のシンセサイザー音楽

60年代になっていよいよシンセサイザーの登場。POPで親しみやすい曲も増えてきました。
ウエンディ(当時は男だったので「ウォルター」ですが)・カーロスによるバカラック・ナンバー“何かいいことないか仔猫ちゃん?”、東京ディズニーランドの初代エレクトリカル・パレードに使用されたペリー&キングスレイ“バロック・ホウダウン”、電気グルーヴが取り上げて有名になったホットバター“ポップコーン”、一度聴いてみたかったヴァン・ダイク・パークスがシンセに挑んだTVCM音源、ピエロ・ウミリアーニによるお手軽な電子観光音楽「スイッチド・オン・ナポリ」「スイッチド・オン・スイス」からの音源などモンドな曲が目白押しの楽しいコーナーでしたね。

4)日本の電子音楽の歴史

ようやく本題?(笑)。NHK電子音楽スタジオで生み出された日本電子音楽黎明期の音源の紹介です。黛敏郎“ミュージック・コンクレートのためのXYZより「Y」”“素数の比系列による正弦波の音楽”、武満徹“水の曲”。ミュージック・コンクレートでもしっかりタケミツしている武満徹はさすがでした。

5)日本のサントラ

映画やTV等の音源です。まずは有名な武満徹“怪談”、賛否両論をまきおこしたという黛敏郎“赤線地帯”からスタート。そしていよいよ冨田勲の登場。いきなり珍品、勝新太郎の渋い声が素敵な“孤独に追われて”に始まり、“ノストラダムスの大予言”“みんなのせかい”、「ニュース解説」の音源が矢継ぎ早に紹介されました。補足として、冨田の弟子だった松武秀樹“驚異の世界”、宮川泰が音楽をてがけた番組「カリキュラ・マシーン」からの“コミカルなシンセサイザー”も取り上げられました。

6)冨田「月の光」前史

歴史的なデビュー・アルバム「月の光」を発表するまでの、冨田が試行錯誤を重ねていた時期の音源の紹介。うつみ宮土里のナレーションでシンセを紹介する“わたしは作曲家”、本人は古傷扱いしているらしいけど(笑)、なかなか完成度の高い、シンセ版ビートルズ“イエスタディ”、「沈める寺」のビクターCMヴァージョン等が流れました。更に、冨田と同時代にシンセを購入した人達として、佐藤允彦“夏は来ぬ”(日本初のシンセ多重録音らしいです)、沖浩一“ヴィヴァルディ・四季”、神谷重徳“四角い卵”、ニューエイジっぽくなる前の喜多郎鼓童”、これは懐かしい姫神センセーション“奥の細道”、後の「ルパン?世」にも通じるフュージョン色全開の大野雄二“Windy Bay”を紹介。ここでようやく第1部終了です。ふーっ。

第2部

1)エキシビジョン

第2部は大阪万博の音源で幕を開けました。開会式での佐藤首相や昭和天皇の挨拶、鉄鋼館のフリーミュージック、冨田が手がけた東芝IBM館、湯浅譲二“ヴォイセズ・カミング”、クセナキスによる西ドイツ館“Hibiki-Hana-Ma”など当時の現代音楽の精鋭達による電子音楽が並びます。対比としてつくば万博における坂本龍一らの音源もかかりましたが、こちらはぐっとポップ・ミュージック寄りの人選になっているところに時代の流れを感じさせます。

2)ジングル&コマーシャル

ここでは短いながらも工夫に富んだ音源の数々が紹介されました。海外ではイギリスの海賊放送のジングルや、レイモンド・スコットなど。国内では鈴木さえ子“有楽町西武百貨店”や後にアルバム『スタジオ・ロマンチスト』に収録される曲の原型となった“After Dream”、メルサ店内音楽“Holy”。ムーンライダーズで“M.I.J”の原型となった資生堂パーキー・ジーンや田中曰く「全然爽やかでない」(笑)コカコーラ“Yes, Coke yes '84”、清水靖晃LAOX”、坂本龍一によるNHK“Youのエンディング・テーマ”などなど。聞覚えのある曲が多かったですね。

3)企画モノ

このコーナーは珍音源ぞろい。Psy・s松浦雅也が音響を手がけた桂文珍創作落語“スペース・ウォーズ”、深町純による桂米丸“賢明な女性たち”、佐藤允彦仕事として二代目相模太郎子連れ狼”バッハ・レボリューションによる一龍齋貞山四谷怪談”といった語り物とのコラボレーションを中心にこういう機会じゃないとまず聴かない音源を楽しみました。

4)デモンストレーション

楽器の紹介や教則の音源が主として取り上げられました。オンド・マルトノ、RCA社シンセサイザー、ウオルター・カーロスによるシンセサイザーの教則レコード、トッド・ラングレンのバンド「ユートピア」での活躍で知られるロジャー・パウエルによるアープ・シンセサイザーのデモンストレーション等です。変わったところでは一柳慧が手がけたステレオのテスト・レコード。全編シンセによるノイズで「こんなのでチェックなんてできねーよ!(笑)」といったアヴァンギャルドなものでした。
また、スクエアの伊藤たけしによって有名になった管楽器タイプの電子音楽楽器「リリコン」やシンクラヴィア、YMOが使用したシーケンサー、MC−8も登場。プラスティックス加入前の佐久間正英によるローランド・シンセサイザーのデモやあの堀井雄二によるオーディオ・チェック音源、井上鑑DX−7デモなどの「あの人がこんなことを!」ネタもたっぷり出てきました。

5)サンプリング初期

YMO「テクノデリック」は常識なのであえてパス(笑)というわけで(?)、アート・オブ・ノイズのデモ音源からスタート。もうやりたい放題やっていて、流石に商品としては無理だけど痛快。続いてマルコム・マクラーレン“First Couple Out”、ロビン・スコット“Eureka ka ka!”、フライング・リザーズ“Sex Machine”坂本龍一“A Wongga Dance Song”(リマスター再発希望!)、スクリッティ・ポリッティ“ヒプノタイズ”といった懐かしの音楽が続々登場。また、ホルガー・ヒラーが日本のCMやJR駅の音をコラージュした音源も楽しく聴くことができました。これは欲しい。

6)YMOが参照した音楽

YMOが参考にしたり影響を受けた音楽を紹介していくコーナー。

<活動前夜に細野が聴いていた音楽>

マーティン・デニーはもちろんですが、“ポップコーン”、オリジナル・サヴァンナ・バンド、プロデュースを手がけたリンダ・カリエールなどが紹介されました。また、同時期に似たような試みを行っていた人達として矢野誠筒美京平、バッハ・レボリューションも併せて取り上げられ、共時的なつながりの側面が補足説明されました。

<活動前夜に教授が聴いていた音楽>

続いては教授です。中国のミュージカル“東方紅”にはちょっと意表をつかれましたが、その後はロジャー・パウエル、ウェザー・リポートビル・エヴァンス、エアプレイといった納得のゆくものでした。

<活動前夜にユキヒロが聴いていた音楽>

ユキヒロはまずサディステッック・ミカ・バンド“空の果てに腰かけて”でスタート。以下ビル・ネルソン、渡辺香津美(というよりKYLIN)の“東京ジョー”(ブライアン・フェリーのカヴァーですね)、シーナ&ザ・ロケッツ“Radio Junk”といったこれも納得の選曲です。

<1stアルバムの頃に影響を受けた音楽>

発売当時は未発表に終わった細野曲“Indo”の元ネタになったラター・マンゲシュカールの作品、ジョルジオ・モロダー“永遠の願い”、Meco“スター・ウォーズ”が紹介されました。補足として、YMOの3人がポリフォニクス名義で録音した“コズミック・サーフィン”、坂本の『千のナイフ』収録曲“ノイエ・ジャパニッシェ・エレクトロニッシェ・フォルクスリート”をYMOがライヴで演奏したときの音源も流されました。

<『BGM』に影響を与えた音楽>

細野が大好きだったマイケル・ナイマンモーツァルト”、デヴィッド・カニングハム“エラー・システム”、“CUE”の元ネタ、ウルトラボックス“パッショネイト・リプライ”、“来るべきもの”の元ネタ、無限音階を使った松武秀樹“ワープ航法 Part 1”、トーキング・ヘッズ“ワンス・イン・ア・ライフタイム”が紹介されました。

第3部


第3部は特別ゲストとして、ノンスタンダード・レーベルやトラットリア・レーベルの中心として活躍したディレクター・牧村憲一戸田誠司が登場。大貫妙子“Carnaval”やShi-Shonen“ラヴリー・シンギン・サーキット”、“瞳はサンセットグロウ”でTV出演したときの映像など両者にゆかりのある音源を流しつつ、当時の話に花が咲きました。印象的だったのは戸田が初音ミクについて「かつてはこういうのが出たら、しばらくしてプロが導入して広まったものだけど、今は発売して一週間ぐらいであっという間にニコニコ動画などでアマチュアがいろいろ面白いことをやってしまう。プロがクオリティの高いのをつくろうとすると6ヶ月くらいは必要だけど、その頃にはもう流行おくれになってしまっているかもしれないので手が出せない。それが悔しい」という主旨の発言をしたところでした。

第4部

ここでは90年代初期のイベント「史上最大のテクノポップDJパーティー」の模様をTBSやスペースシャワーでの映像によって振り返りました。時あたかもYMOが再生するかどうかで盛り上がっていた時期。細野のインタビュー映像のありましたが、見事なトボケっぷりが今になってみると面白いですね。

第5部

ようやく最終部。初音ミクに至るまでの歴史です。

1)効果音レコードの歴史

まずはアニメの効果音から。鉄腕アトムガンダムゴジラキカイダーなどがどんどん紹介され、海外モノとしてスター・トレック、ハンナ・バーベラ・シリーズなどが紹介。併せてアニメじゃないけど「必殺シリーズ」も取り上げられました。大半の客が食事をしながら聴いているなか、人を斬ったりする音が流れた光景はなかなかシュール(笑)。

2)聴き比べ“コンピューターおばあちゃん

権利関係のため、レコード会社ごとにアレンジを替えた音源が存在するという“コンピューターおばあちゃん”を聴き比べてみようという試みです。流れたのは坂本龍一(これが一番有名ですね)、久石譲難波弘之笹路正徳。できればもっと時間をとって聴きたかったですね。
原曲を知らない方は↓でどうぞ。

3)音声合成の歴史

いよいよ初音ミクまで後わずか(笑)。ベル研究所による“The Voice of IBM Computer”に始まり、またまた登場ウエンディ・カーロス“Vocal Synthesis”、日立製作所が手がけた“上を向いて歩こう”、一柳慧“東京1969(inc.一本どっこの歌)”“生活空間のための音楽”など貴重音源の目白押し。先人の夢と苦労がしのばれるものばかりでした。こうして聴き進めてみるといかに初音ミクの完成度が高いかがわかります。とあるミュージシャンは「サンプラーに匹敵する発明」とまで評しているそうですね。
そして締めくくりはソフト3連発。Vocal Writer、Cantor2、そして初音ミクによる音源の聴き比べで長時間にわたるイベントは幕を閉じました。一瞬も飽きることはない、楽しい時間でした。主宰者の田中氏に心からお礼を言いたいです。お疲れさまでした!ぜひ続編もお願いしますね。


最後に初音ミクがYMOを歌っている動画を掲載しておきましょう。優れた作品はいろいろあるのですが、とりあえずYMOのメンバーを模した画像がユニークなこれを。ちなみにHMOとは“初音ミク・オーケストラ”のことです。


電子音楽in JAPAN

電子音楽in JAPAN

電子音楽 In The(Lost)World

電子音楽 In The(Lost)World