ガウディ+ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン『ダブ・カッワーリー』

ダブ・カッワーリー

ダブ・カッワーリー

ヌスラットの没後10周年を記念して、ロンドンを中心に活躍するプロデューサー、ガウディが彼の音楽をダブ・サウンドでリミックスしたアルバムです。
ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンの名前はワールド・ミュージックがブームになったとき耳にしたことがある方が多いと思います。かくいう私のその一人で、ピーター・ガブリエルがリアル・ワールド・レーベルを通して紹介した音を聴いたのが出会ったきっかけです。その強烈な節回しのヴォーカルはあっという間に耳を奪っていきました。彼が奏でる音楽「カッワーリー」とは主にパキスタンで人気のあるイスラム宗教歌謡です。しかし生前のヌスラットはジャンルの壁を軽々と飛び越え、様々なアーティストと共演を果たしてきました。その中にはマッシヴ・アタックがリミックスを手がけた曲や、マイケル・ブルックがアンビエント風のサウンドで味つけしたアルバムもあります。こうしてみると、今回のガウディの試みは決して突飛なものではありません。しかし、ガウディはこのプロジェクトを「(ガウディ自身の)26年の音楽活動の中でもっとも重要な作品」であると位置づけ、入念なサウンド・プロダクションを施し、完成度の高い一枚に仕上げました。ガウディのこだわりのひとつとしては、ヌスラットのヴォーカルの音源を1968年から1974年までの時期、すなわちまだヌスラットがワールドワイドな名声を得ていない時代から選らんでいることです。すでに堂々たるコブシ回しを聴かせてくれるヌスラットのヴォーカルですが、なるほど確かに“若さ”を感じさせる声質でこれだけでもかなり新鮮に響きます。さらにガウディがこだわったのはサウンド・メイキング。古い音源を用いたヴォーカルにあうように、テープ・エコーや真空管アンプなどアナログ機材を中心に音を組み立てていったのです。ダブ・サウンドといっても主役のヌスラットのヴォーカルは音楽の中心にしっかりと位置し、切り刻まれたり、過剰なエコーを加えられたりすることはありません。これは刺激的なサウンドに包まれた魅力的なヴォーカル・アルバムなのです。濃いけれども続けて聴いてももたれないのが素晴らしい。