ビーチ・ボーイズ『サーフズ・アップ』

サーフズ・アップ

サーフズ・アップ

後世に残るにふさわしい傑作曲が3つも入っていればアルバム全体だって希代の名盤となりそうなもの。ところがこのアルバムが名盤か、というとなんとも微妙な感じです。こういうアルバムが多いのがビーチ・ボーイズのややこしいところですね。当時のマネージャーだったジャック・ライリーが時代性を反映させた音楽作りを要求したこともあって、彼らにしては珍しく社会へのメッセージ性の濃い曲が収録されています。けれども、このアルバムの中で今でも私の胸をうつのは時代性に背を向けた3曲だけです。他の曲も悪くはないのですが、あまり聴き返すことはありません。

まずはブルース・ジョンストン一世一代の名曲「ディズニー・ガール」。アン・サリーなどによってカヴァーされたバラードですが、“現実なんて興味がないよ。ぼくはファンタジーの世界に戻るんだ”と思い切り現実逃避しています(笑)。しかし甘美なメロディーと優しいヴォーカルが何度聴いてもしみます。エンディングで聴こえる口笛も効果的。続いてこの頃絶不調だったブライアン・ウィルソンによる「ティル・アイ・ダイ」。“ぼくは海に浮かぶコルク・・・”と当時の不安定な心境が歌われていますが、独特なコード進行をもった翳りをもつスピリチュアルな楽曲で、聴き返す度に味わいが増します。そして元々「スマイル」に収録される予定だった「サーフズ・アップ」。私がブライアン・ウィルソン最高の1曲を選べといわれたら迷わずこの曲を選びます。2004年に完成されたブライアン版『スマイル』に収録されたヴァージョンも良いのですが、やはりここで聴かれる演奏がベスト。予想もつかない曲展開と、いいしれぬ不安感をしのばせながらも格調の高さを失わないメロディー、ヴァン・ダイク・パークスによるメタフォリックな歌詞、そしてそれを見事に歌い上げたブライアンのヴォーカルの美しいファルセット。レナード・バーンスタインが絶賛したのも納得です。これが一時はお蔵入りになってしまったんだから、そりゃあショックは大きいですよね・・・。