上橋菜穂子 「精霊の守り人」「闇の守り人」

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

闇の守り人 (新潮文庫)

闇の守り人 (新潮文庫)

文化人類学者でもある著者の代表作「守り人」シリーズの1,2作目。少年少女向けとして発売されていたため(ひとり者にもっとも情報が届きにくいジャンルですから(笑)・・・)、当初はこのシリーズも著者のことも全く知らず、「精霊の守り人」の文庫化を機に手に取ったのですが、予想以上に読み応えがあって感服しました。なるほど、「ユリイカ」誌で作者の特集が組まれるのも納得です。
2作とも女用心棒のバルサを主人公として展開し、「精霊の守り人」は水の精霊(ニュンガ・ロ・イム)の卵を宿した新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを護衛する話で、「闇の守り人」は自分の過去を清算しようとして、生まれ故郷のカンバル王国に帰ったバルサに起こった事件の話です。人間の世界(サグ)とそれに重なって存在するが目には見えない精霊の世界(ナユグ)を軸とした、地に足のついた骨太の世界観を持っているのが大きな魅力ですが、それだけではなく徒に設定やキャラクターの個性に頼るような浮ついたところがないので大人の鑑賞にも充分耐えます。特に主人公のバルサが既に30歳という、ある程度人生の経験を積み、辛酸をなめている設定となっていることが作品に深みを与えている一因となっているのではないでしょうか。全10巻のシリーズということなので、まだまだこの2作は序盤に過ぎませんが、ここまでだけでも「ゲド戦記」に匹敵するファンタジーの傑作と評価して差し支えないくらいの出来栄えです。続編の文庫化が待ち遠しくてしかたありません。