趙静+大萩康司『10弦の響(Les Dix Cordes)』

10弦の響(Les Dix Cordes)

10弦の響(Les Dix Cordes)

チェロとギターという珍しい組み合わせによるアルバムを2回にわたって取り上げたいと思います。今回はミュンヘン国際コンクール優勝者の趙静と、気鋭のギタリスト大萩康司のデュオです。一見異色の取り合わせに思えますが、チェロは人間の声に近い音域を持ちますし、ギターが歌の伴奏楽器として優れていることは言うまでもなく、してみると相性が良いのはある意味当然とも言えるでしょう。このアルバムでも朗々とした節回しを聴かせる趙のチェロに、大萩が自在な伴奏をつけて引き立てる、という場面が多く聴かれます。こう書くと趙が主役のように思えるかもしれませんが、ヴィラ=ロボス、ニャタリ、ピアソラといった南米系の作曲家の作品を核とした選曲は大萩のフィールド寄りであり、互いにアイディアを出し合ってアルバムを練り上げていることがうかがえます。白眉はラストに置かれたピアソラ「タンディ・アンニ・プリマ」。ノスタルジックで哀感のあるメロディをしっとりと歌い上げる趙と繊細この上ないバッキングをつける大萩によって、ピアソラの隠れた魅力が浮き彫りになった名演です。