7/1伶楽舎第八回雅楽演奏会“伶倫楽遊”@紀尾井ホール

伶楽舎

伶楽舎は雅楽の演奏団体ですが、古典曲だけではなく、新曲の演奏にも積極的に取り組んでいます。録音活動でも、武満徹の「秋庭歌一具」を収録したCDが高い評価を得ていますし、岡野玲子の「陰陽師」のイメージアルバム『music for 陰陽師』も彼らの演奏を収録しています。このアルバム、2枚組で1枚は伶楽舎の演奏、もう1枚はブライアン・イーノアンビエント・ミュージックという異色の取り合わせが話題をよびました。


今日の演奏会のプログラムにも伝統を継承しつつも新しい試みに挑み続ける伶楽舎の姿勢が反映されていました。第一部は管弦2曲「朝小子(ちょうこし)」と「輪鼓褌脱(りんここだつ」、舞楽「還城楽(左方)」を演奏。本格的な雅楽の演奏を見るのは初めてだったのですが、最前列に太鼓・鞨鼓・鉦鼓のパーカッション陣が並び、最後列が竜笛と笙という楽器の配置からして既に西洋のオーケストラとは全く異なる音響感覚で音楽が組み立てられていることが伝わってきます。そして予想以上に迫力あるサウンドだったことに驚きました。会場一杯に鳴りわたる篳篥の音と、サイズの割りに重低音を響かせた太鼓が特に印象的でしたね。
舞楽では楽器陣は左右に分かれ、中央のスペースで舞が披露されました。ゆっくりとした動きですが、迫力のある勇壮な舞に惹きつけられました。この「還城楽」、従来は右方の様式で演奏されることが多いそうですが、今回は左方の様式を取り上げたとか。いつか右方も見てみたいものです。


休憩を挟んで第二部は吉松隆作曲「夢寿歌(ゆめほぎうた)」の委嘱初演でした。吉松隆雅楽というのは一見意外な取り合わせですが、実は既にかなりの楽曲を書いています。私はCDで『星夢の舞』を聴いたことがありますが、リズミックでポップな楽想を持った吉松らしい楽曲でした。
「夢寿歌」はそれぞれ「夢舞(ゆめまい)」「風戯(かぜそばえ)」「早歌(はやうた)」「静歌(しずうた)」「舞人(まいうど)」と題された5つの楽章からなる曲。「星夢の舞」のようにいきなりポップなフレーズが出てくることこそありませんでしたが、竜笛による柔らかなフレーズが様々な楽器に受け渡されてくる「夢舞」に始まる、親しみやすい響きをもった曲でした。旋律の輪郭や曲の構造が古典曲よりも見えやすく感じるんですね。アップテンポの「早歌」では古典曲では時の流れに楔をうちこんでいるかのように響いたパーカッション群が、はっきりと“ビート”を刻んでいるのが面白い。全ての楽器の響きが錯綜したかと思われた瞬間、プログレっぽい“決め”のフレーズが出てくるところに、とても吉松らしさを感じました。古典曲と現代曲、どちらが良い悪いというのではなく、音楽を組み立てていく発想の違いが両者を聴き比べることでくっきりと浮かび上がったような気がします。刺激に満ちた、とても貴重な時間を過ごすことができました。